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遠い思い出

昔、私が中学生だった頃。
 
お財布をなくして、文字通り1円もないのに
帰りが遅くなってしまった時があった。
 
「たぶん、心配してる。。。」
 
と、親に連絡できないまま
駅で途方に暮れていた。
 
 
その時。
 
「大丈夫?」
 
と、声をかけてくれたお姉さんがいた。
 
 
事情を話すと、お姉さんは、
 
「はい。貸してあげる」
 
と、10円を差し出してくれた。
 
 
お姉さんの貸してくれた10円で
公衆電話から家に連絡することができ、
ほっとひと安心した後、
 
「お姉さん、明日もここに来ますか?
 いつ、10円返せばいいですか?」
 
と聞くと、お姉さんはやさしく微笑んで
 
 
「いいよ、キミにあげる。
 よかったね、気をつけて帰ってね」
 
と言って、雑踏に消えていった。
 
 
 
あれから数十年。
 
もう、お姉さんに会うことはないだろうけれど、
今でもそのやさしさは、胸に刻まれている。
 
あんなお金の使い方を、
私はできているだろうか?
 
できるように、なれたらいいな。
 
 
と、ふと、秋のはじまりの空を見あげた。
 

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