昔々、村のはずれに、強大な力を持った
魔法使いが住んでいた。
その魔法使いは、すでにこの世からいなくなっていたが、
魔法使いが住んでいた館には、
長い年月をかけて蓄えられた財宝が眠っていると噂されていた。
その財宝は、一生遊んで暮らしても
使いきれないほど莫大なものだという。
魔法使いは、
「勇気のある者よ。
私のすべてを注ぎこんだ扉を破る自信があれば、
財宝を取りに来るがいい!」
と、世界の人々を挑発して、この世を去った。
そこで、多くの勇気ある者たちが
魔法使いの財宝を目指して、
魔法使いの館に挑戦をした。
しかし、今まで誰一人として、
財宝までたどり着けるものはいなかった。
館に挑戦をした、ある男は言う。
「館に足を踏み入れると、1枚目の扉の前に
動く巨人の石像がいて、力比べを挑んでくるんだ。
その石像には、とてもかなわない」
また、ある男は言う。
「巨人の石像はまだいい。
そこから進むと、2枚目の扉の前には、
弓矢を持った石像がいるんだ。
その石像は、“最も大切なもの”を聞いてくる。
そして、こちらが答えると、大切なものに向けて
魔法の矢を放つ。
その魔法の矢は、どんなに離れていても、
確実に“大切なもの”を射抜いてしまうんだ。
そして、嘘をつくと、嘘をついた本人の心臓を
射抜いてしまう」
さらに、別の男が言う。
「私は、巨人の石像も、弓矢を持った石像の難関も越えた。
しかし、財宝の間の扉の直前に座っている、
翼のある石像の出す謎に答えることができなかった。
奇妙な図形と文字が描かれたブロックがいくつもあるんだが、
どんな風に合わせても、意味のあるものにならなかった」
数々の勇者が成功を求めて挑戦し、
そして同じ数の勇者が敗れていった。
もはや、魔法使いの財宝を手に入れるという
成功を手にするものは、これからも現れることがないだろう、
と思われていた。
そこに。
まだあどけなさの残る少年が、
魔法使いの館に挑戦することにした。
魔法使いの館の門をくぐると、
まずはうわさ通り、動く巨人の石像が
少年の目の前に仁王立ちをしていた。
石像は、口を開く。
「少年よ。私と力比べだ」
少年は、驚く様子もなく、
動く石像に向かって、ひとつ質問をした。
「あなたと力比べをすることと、
ここを通って財宝を手に入れることとは、
どんな関係があるの?」
すると、石像は驚いた表情をした後、
しばらく考え、少年に答えた。
「。。。関係は、ない。
単に、力比べがしたいだけだ」
少年は石像の答えを聞くと、
「じゃあ、悪いけど他の人とやってよ。
僕は、道を急ぐから」
と言いながら、1枚目の扉を開けて、
館の奥へと進んで行った。
しばらく歩くと、次は弓矢を持った石像が
立っていた。
石像は、弓に矢をつがえながら、
「お前の大切なものを答えるがいい。
嘘を言ったら、お前自身を貫くぞ」
と、少年に言った。
少年は、先ほどと同じように、
石像に対して質問をすることにした。
「あなたに大切なものを言うことと、
ここを通って財宝を手に入れることとは、
どんな関係があるの?」
石像は、しばらく黙っていたが、
「。。。考えてみると、全然関係がないな」
と言いながら、弓矢をゆるめた。
少年は、
「じゃあ、僕の大切なものは言わないよ。
石像さん、元気でね!」
と言うと、2つ目の扉も開けて、
まっしぐらに財宝の間を目指して行った。
財宝の間の扉の目の前には、
翼を持った石像が座っていて、少年を睨みつけた。
「目の前のブロックを合わせて、
意味を見出してみるがいい」
少年は、石像の話を聞き終わると、
ブロックには目もくれず、石像に話しかけた。
「このブロックの謎を解くのと、
ここを通って財宝を手に入れることとは、
どんな関係があるの?」
石像はすぐさま
「全く関係はない。
ただ、私にも解けないから
たまにここに来る者たちに聞いているだけだ」
と答えた。
少年は、
「じゃあ、財宝を手に入れてから一緒に考えてあげるけど、
まずはそこをどいてくれない?」
と言うと、財宝の間の扉の前までやってきた。
財宝の扉には、しっかりと鍵がかかっていて
なかなか頑丈だった。
しかし、魔法使いが生きていた頃には
世界最高の鍵だっただろうけれど、
今は、もっと頑丈な鍵がある。
少年は、財宝を手に入れるため、
鍵を開けることだけに集中した。
そして。
とうとう鍵を開け、扉を開けることができた。
中には、うわさ通り、たくさんの財宝が
山と積まれていた。
成功を手にした少年は、ぽつりとひとり言を言った。
「なんで大人たちは、
目の前に現れたものを、全部試練だと思うんだろう?
ほとんどが、財宝とは関係ないのに」