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『まんまる』

まっさらで、まんまるだった。
 
地上に降りる前は、たしかにそうだったように思う。
 
 
でも、地上で息吹いた瞬間に、
まんまるに、くっついたんだった。
 
何がくっついたのか、もう遠い昔なので覚えていない。
愛だったか、喜びだったか、感動だったのか。それとも。
 
いずれにしても、何かがくっついてしまった。
だからもう、まんまるではなくなってしまったんだった。
 
 
 
「まんまるになりたいな」
 
いや、ふだんは思い出しもしなかったけれど、
どこかでそう感じていた。
 
「まんまるになりたいな」。
 
 
 
それからまんまるになるために
たくさんのものを集め始めたんだった。
 
 
たくさんのもの。
 
ある時は、承認。
 
ある時は、お金。
 
ある時は、地位。
 
ある時は、友人。恋人。家族。
 
 
それだけじゃない。
 
ある時は、嫉妬。
 
ある時は、衝突。
 
ある時は、侮蔑。 
 
ある時は、喪失。絶望。孤独。
 
 
「欠けた」「いやな」ように見えることも、
実のところ、まんまるになるために
たぐりよせた「得た」ものだった。
 
 
 
でも、どんなにどんなに集めても、
思うような まんまるになれない。
 
 
どこか、いびつで。
 
どこか、へこんでいて。
 
どこか、ですぎていて。。。
 
 
 
「結局、まんまるには
 なれなかったな」
 
 
ここまで何年だったか、何十年だったか。
宿っていた肉体は衰え果て、
地上を離れることになった。
 
 
最後の最後まで、
「後悔」「諦め」「愛」「寂寥」「達観」と
いろいろと集めては足してみたけれど、
まんまるになることは、とうとうできなかったな。
 
 
 
 
終わった。終わった。
 
 
 
 
と。
次の瞬間。
 
 
今まで集めてきたすべてのものが、
サビが崩れるかのように剥がれ落ち、 
 
そこには、
まっさらで、まんまるの「それ」が在った。
 
 
 
ああ、そうか。そうだった。
 
もとから、まんまるだったんだった。
 
 
 
それなのに、なんで、あんなに必死に、
まんまるになろうとしていたんだろう?
 
 
 
いや、そうか。
いいんだ、これで。
  
 
 
「まんまるじゃない」があるから
「まんまる」があるんだもの。
 
 
一生かけて「まんまるじゃない」をやったから、
「まんまる」だって思い出したんだ。
 
 
 
 
たくさんの、たくさんのものを集めてできた
「まんまるじゃない」。
 
 
いびつで、へこんで、ですぎていて。
 
 
でも、そうでよかったんだ。
そうじゃないと、だめだったんだ。
 
 
まんまるであるうちは、
まんまるはない。
 
まんまるがないから、
まんまるになるから、
まんまるはあるんだから。ね。
 

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