むかしむかし、一軒のお家に
二人が一緒に住んでいました。
一人の名前は、アタマちゃん。
もう一人は、ココロちゃんという名前でした。
アタマちゃんはしっかりもので、
いつも、どうすれば「正しい」のかを考える子でした。
ココロちゃんは、ニコニコしていたかと思ったら
すぐにプンプン怒りだしたりする子で、
「すき・きらい」がコロコロと動く子でした。
そんなココロちゃんに、
いつもアタマちゃんは悩まされていましたが
同じお家に住んでいる二人は、いつも一緒でした。
－－－
お家がまだできたばかりの頃は、
ココロちゃんがいつも先頭で
アタマちゃんを引っ張って遊んでいました。
でも、二人が成長して、お家が大きくなってくると
いつのまにか、アタマちゃんが
いつもココロちゃんをさえぎるようになりました。
「そんなことしたら、ダメ！」
「嫌いな人の前にはココロちゃんは出ないで！
私が、とりあえずニコニコしておくから」
「そんな勝手な事ばっかりしたら、
お家が壊れて、住んでいられなくなっちゃう！」
アタマちゃんだって、
本当はココロちゃんの好きなようにさせてあげたい。
でも、「正しい」ことをしなければ、
アタマちゃんは、アタマちゃんでは
なくなってしまうのです。
－－－
ある時、アタマちゃんとココロちゃんは、
とても素敵な人に出会いました。
アタマちゃんは、その人の生き方が
とても美しいと思いました。
ココロちゃんは
「だいすきで、だいきらいで、だいすき！」
と、コロコロと踊りました。
でも、アタマちゃんはその人に素直になれず、
ココロちゃんが「だいすき」と伝えたい時には
それを止め、
ココロちゃんが「もうだいきらい！」と言う時に
止めることができませんでした。
アタマちゃんは、ふだんは
「正しさ」で考えられるのですが、
ココロちゃんがあまりに暴走すると、
本当にやればいいことを、やれなくなってしまうのです。
そんなアタマちゃんとココロちゃんが
ケンカをしている間に、
素敵な人は去ってゆきました。
アタマちゃんは「応援してるよ」と見送り、
ココロちゃんは「やだ！」と泣きました。
でも、ココロちゃんはアタマちゃんに口をふさがれて
相手には「応援してるよ」だけが届きました。
ココロちゃんは言います。
「なんで、いっつも自由にさせてくれないの？
もっと自由にしている家だってあるのに！」
アタマちゃんは、言います。
「自由にさせてあげたいけど、
どうすればいいのか分からなくて困ってるんだもの」
ココロちゃんは
「もうアタマちゃんなんかだいきらい！」
と、部屋に閉じこもってしまいました。
アタマちゃんも
「どうして分かってくれないの？」
と、自分の部屋に閉じこもってしまいました。
それでも、一緒のお家に
住み続けることには、変わりません。
－－－
お家が、古くなってきました。
ピカピカだったお家も、
ところどころが崩れ、剥げ落ち、
支えが必要なところも出てきました。
二人は、それでも相変わらず同じお家で
一緒に住んでいます。
ココロちゃんは、アタマちゃんに聞きます。
「アタマちゃん、あなたの守ってきた
” 正しい ” って、本当に正しかったの？」
アタマちゃんは、黙って首を横に振ります。
アタマちゃんは、ココロちゃんに聞きます。
「ココロちゃん、あなたがいろんな人に言ってきた
” だいきらい ” は、本当だったの？」
ココロちゃんは、うつむいてしまいました。
何が正しくて、何がよかったのか？
それは、二人にはまったく分かりませんでした。
ただ、多くの人に出会い、その中で
「正しい」「間違っている」「好き」「嫌い」
を繰り返してきました。
今住んでいるこのお家。
それが、夢見ていたお家になったのか？
それとも、まるで違うお家になったのか？
それも分かりません。
ただ、懸命に生きている。
それが、誰に伝わり、誰に伝わらなくても。
アタマちゃんとココロちゃんは、
きしみながら必死に建っているお家で、
これからもケンカしながら、生きてゆくのでした。