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『プレゼント』

どこからともなく唐突に現れた妖精
(妖精?あるいは天使なのか?それとも悪魔なのか?)
は、私にこう言った。
 
 
「あなたに、あるものを
 プレゼントしたいと思います」
  
「プレゼント?」
 
「はい。ただ、それをあなたが欲しいのか
 私には分かりかねるので、
 受け取るかどうかは、あなたが決めてください、
 どうしますか?」
  
 
私は戸惑った。
 
 
「どんなものなのか分からないのに
 受け取る事なんてできるわけがない。
 お前が何者なのかも分かっていないのに」
 
 
それを聞くと妖精らしきものは、
それはもっともだ、という顔をした後、
 
 
「たしかにそうですね。
 ただ、プレゼントの中身を
 お伝えすることはできないのです。
 
 では、こうしましょう。
 あなたは私からのプレゼントに対して、
 YESかNOで答えられる質問をしてください。
 
 その質問のあと、受け取るかどうかを
 決めてくださればけっこうです」
 
 
「なるほど。それなら判断できるかもしれないな。
 質問は、何回していいんだ?」
 
 
妖精らしきものは、しばらく考え、
 
 
「そうですね。
 際限なく、というわけにも行きませんので、
 5回、ということにしましょう。
 
 5回の質問が終わった後、
 私がプレゼントを受け取るかを聞きますので
 そこでYESかNOを教えてください」
 
 
「よし、わかった。
 それなら大丈夫そうだ」
 
 
 
そうして、私は「プレゼント」に対する
質問を投げかけることになった。
 
 
「プレゼント、ということは、
 それはモノなのだろう?
 形のあるものなのか?」
 
「いえ、NOです」
 
 
いきなりつまづいた。
モノじゃないプレゼント?
 
まさか、笑顔とかでもあるまい。
 
 
私は、次の質問を考えた。
 
 
「それは、目に見えるのか?」
 
「それもNOですね」
 
 
これもNOなのか。
ふん。目に見えず、形もないプレゼントなんて
プレゼントといえるのか?
 
こんな小さな妖精が用意するプレゼントなのだから、
おそらく、くだらないものなのだろう。
 
 
私は質問の方向を少し変えてみることにした。
 
 
「そもそも、それは私にとって
 メリットのあるものなのか?」
 
 
妖精は少し考えた後、
 
 
「うーん、、、
 それは受け取った人次第ですね。
 私としては価値があると思っているのですが、
 極端にそれを嫌う人もいます。
 中途半端な答えで申し訳ないです」
 
 
と答えた。
 
 
 
すでに3つも質問をしてしまった。
 
 
一体こいつは何者で、
なぜ私の目の前に現れたのだ?
 
 
もしかしたら、おとぎ話にでてくるような悪魔で、
私の魂を盗み取ろうとしているのかもしれない。
気をつけなければ。
 
 
「お前は悪魔なのか?」
 
「それはプレゼントに関する質問ではないので
 お答えはできません。
 今の質問はカウントしませんので、
 あと2つ質問をどうぞ」
 
 
そう言うと妖精は、うっすらと笑ったようだ。
 
 
やはり、こいつはあやしいぞ。
 
そもそも、タダでなにかをプレゼントするなんて
おかしいものだ。
 
 
「ううむ。
 それを受け取ると、何かが保証されたりするのか?」
 
 
魂を受け取る代わりに、何かをかなえる、
といったものなのだろうか?
 
 
「いいえ、NOです。
 どちらかというと、受け取ると
 今まで持っていたものを失う可能性もあります」
 
 
やはり、とんでもないじゃないか!
 
そんなプレゼントを欲しがる奴なんて
いるのだろうか?
 
 
 
 
「最後の質問です。いかがしますか?」
 
 
妖精は、私に質問をうながした。
 
私は身構えながら最後の質問をすることにした。
 
 
「私が受け取るか受け取らないかは
 もう、だいたい決めた。が、念のためだ。
 それを受け取ると、私は誰かに尊敬されたりするのか?」
 
 
「それも人次第なのですが、
 これを受け取ることにYESを言った人は
 たいていは人から尊敬されるよりも、
 バカにされることが多くなるようです」
 
 
ほら見ろ!ろくなものじゃない。
 
 
 
妖精は私に告げた。
 
 
「さて、5回の質問は終了しました。
 私からのプレゼント、あなたは受け取りますか?
 YESかNOで教えてください」
 
 
私は虫を追い払うかのように手を振りながら、
 
 
「形もない。目にも見えない。
 
 それだけならまだしも、
 私にとってメリットがあるかも不安定で、
 いま持っているものを失う可能性もある。
 
 ましてや、
 受け取ったら人からバカにされるものなんて
 欲しいわけがないだろう。
 
 答えはNOだ。そんなもの、いらない!」
 
  
と言い放った。
 
 
 
妖精は少し残念そうな顔をしたものの、
 
 
「分かりました。
 約束ですので、私はプレゼントを渡さずに
 立ち去りたいと思います。
 お付き合いくださり、ありがとうございました」
 
 
と言い、私から離れて行こうとした。
 
 
私は、とんでもない危機を回避できた
満足感とともに
 
 
「おい、悪魔め。
 お前が渡そうとしていたプレゼントは、
 結局なんだったんだ?」
 
 
と、勝ち誇ったように問いかけた。
 
 
 
妖精は、こちらにふり返ると、
寂しそうな笑顔で告げた。
 
 
「終了したので、お伝えしてもいいでしょう。
 まず、私は悪魔ではありませんよ」
 
 
そして、最後にこう言うと、
私の前から姿を消した。
 
 
「あなたに渡そうとした
 プレゼントは ” 未来 ” です」
 
 
 
 
 
そして。
 
 
 
未来を受け取ることにNOと言った私は、
その通りの人生となった。
  
 

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