私に与えられたリミットは、5日間。
この5日の間に、「旧き大地」へと到達し、
そしてまた帰還しなければならない。
本来であれば、
こんな過酷な旅は選択しない方がいい。
しかし、私に許された機会、そして
「旧き大地」からの呼びかけに拒絶はできない。
—
「旧き大地」への旅のはじまりは、
魂を持たない門番との契約だった。
「汝の真の名を唱えよ。
そして、門をくぐる代償を我に」
ここでしくじるわけにはいかない。
私は普段は誰にも伝えることのない真の名前を告げ、
そして門番が宣言した通りの代償を支払った。
「うむ。よかろう。
もはや、戻ることは叶わぬと知れ」
そして、私は旅立ちの覚悟を決めたのだった。
—
次に待っていたのは、亡者の群れであった。
彼らも「旧き大地」を目指す者たちなのかもしれない。
しかし、彼らの顔には生気はなく、
ただただ群れをなして道なき道を進むだけだった。
あるいは、私自身も亡者の一人となっているのだろうか?
いや、違う。違うはずだ。
私は門番に刻印された「しるし」をかざし、
「旧き大地」へと繋がる異空間の回廊へと
身を投じた。
—
回廊を抜け、
そこからまたしばらく続いた旅の果て。
そう。
こここそが「旧き大地」。
近寄りがたいような、
それでいて懐かしいような大地に、
目的の城がひっそりと建っていた。
城に足を踏み入れる。
すると、
今まで瓦礫だと思っていたものたちが
私の足をつかみ、ひっぱる。
足だけではない。
腕、髪の毛、そして心さえも
乱暴に爪を立て、離そうとしない。
それは、「過去」たちだった。
私が過去に積み重ねてきた
数々の業が、私にまとわりついてきた。
それは赦しを得るためなのか?
それとも、私自身を赦すためなのか?
あれほどまでに憧れた栄光も、
今では私を苛む魑魅魍魎と化している。
魔法が、呪いに変わったのだ。
「くっ…こんなことでは….」
私は気を強く持ち、
群がる「過去」たちをなぎ払った。
こんなところで倒れるわけにはいかない。
私にはここでやるべき使命があるのだ。
—
とうとう、目的へとたどり着いた。
「旧き大地」を統べる王、そして女王。
私のすべてを知り、
すべての憎しみと愛を教えた者。
「久しいのぅ….」
老いた旧き王は、自分がまだ
すべてを掌握しているかのように
私に眼差しを向ける。
「大地の元に在る恵みを…」
女王は、震える手で私に「過去」を示す。
私のすべてを作り上げたその存在に
私は語りかける。
彼らを傷つけるのが目的ではない。
しかし、もはや私は彼らの世界だけで
生きているわけではないことを
忘れるわけにはいかなかった。
そして、旅の目的は、果たされた。
—
…私は「旧き大地」で手に入れた宝物を手に、
また亡者の群れと戦いながら
帰還の道をたどっていた。
この旅に、どれくらいの意味があったのだろう?
この宝物を私が仕える王宮、
そして仲間たちに捧げたところで
さして喜ばれもしないような気もする。
しかし、この儀式にも似た旅を
やめるわけにはいかない。
義務と意思のはざまで
肉体と精神、そして少なくはない代償を支払い
この旅をまた繰り返すのであろう。
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「え?5日ですか?」
「今年、なんか忙しいんだよ。
5日もあれば夏休みなんて充分だろ?」
ええー!
5日の間に、実家に顔出さないといけないのか。。。
本来なら、
こんな盆休みのピークなんて絶対やだよなぁ。。
でもまぁ、夏休みくらいしか
実家には行けないから、仕方ないか。
—
新幹線のチケット取らないと。
「パスワードを入力してください。
料金は、12000円となります」
パソコンにパスワードを入力し、チケット予約をする。
「こちらのチケットは、変更できません」
帰省ピークのタイミング。
高いし、キャンセルもできないチケット。
行く前から、なんかちょっと
気分が乗らないわ。
—
案の定、ターミナル駅は大混雑だった。
うわ、駅ですれ違う人もみんな、
行く前から完全に疲れきってる。
まぁ、私も同じような顔をしているんだろうだけれど。
そんなラッシュをすり抜け、
私は自動改札にチケットをかざし、
実家へと向かう新幹線に乗り込んだ。
—
ふぅ。乗り継ぎ乗り継ぎで、
やっと実家。
「ただいまー」
うわ、懐かしーーー!!
昔に遊んだ、おもちゃ。
当時夢中になった、あれこれ。
勉強机も、あの時のままだ。
「恥ずかしッ…..」
いろいろ、変なものに熱中したもんだなぁ。
今ではガラクタにも見えちゃうけれど、
こんなものたちが、私をつくってくれたんだな。
—
「おう、元気そうだな」
父親は、なんとか威厳を保とうと
微妙な距離感で話しかけてくる。
「これ、好物だったでしょ?」
母親は、昔の私が大好きだった
地元のお菓子を差し出してくる。
いや、もう好み変わってるし。
でも、そんなこと言わなくてもいいな。
とりあえず顔を出せば、いいわけだし。
—
…地元のおまんじゅうを手に、
私はまた新幹線に揺られていた。
「お盆に実家に帰るのって、
意味あるのかなぁ。。。」
けっこう疲れるし、お金もかかるし。
会社の同僚に
このおまんじゅう持って行っても
大して喜ばれないもんなぁ。。。
でも、ま、
こんなもんだよね。夏休みって。
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みなさま、素敵な夏休みを!!
ではでは。