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『来世』

どうやら私は、天に召されたらしい。
 
身体が軽いし、なんなら半透明だ。
空を飛んでいるみたいで、
はるか先の光の球に向かって勝手に進んでいる。
 
 
「お疲れさまー」
 
私に向かって笑顔で話しかけてくる人がいた。
 
「あなたは?」
 
「私?私は、あなたの前世。
 普通はこんな風に話せることはないのだけれど
 なんかの天のミステイクかもね」
 
私の前世と名乗る人は、そう言って肩をすくめた。
 
 
「あなたが私の前世…..?
 そう。もう疑っても仕方ないから、それでもいいわ。
 あれ?前世があるっていうことは、来世もあるのよね?
 私、、、私たちの来世はどうなるのかしらね?」
 
私は相手も乗りやすいような話題を振ったつもりだったが
返答は予想外なものだった。
 
「ああ、私たち、来世ないんだって。
 あなたでラスト。ゴールだってさ」
 
「え?」
 
「つまり、もう生まれ変わらないで、
 神?宇宙?と一体になるんだって。ハハッ」
 
 
え、、、そんなバカな。
 
 
だって、私はそんなに立派に生きて来たとは思えないし、
ものすごい偉業を成し遂げたわけでもない。
 
とんでもなく悪いこともしなかったかもしれないけれど、
素晴らしい善人だったという自信もない。
 
 
私が口をあんぐり開けて呆けているのを見ると、
私の前世は、
 
「なんか、神と一体になるとか、解脱とかいうと
 私もすごいことみたいに思ってたんだけれど、
 そうでもないらしいよ。大丈夫、珍しくない珍しくない」
 
と言い、さらに
 
「ほら、子どもを生まない人も多いじゃない?
 それと同じで、次の世代に魂をバトンタッチしない的な? 
 子どもは肉体的次世代で、来世は魂の次世代みたいな?」
 
と、分かるような、まるで分からないようなことも付け加えた。
なんか話し方が軽々しいのも、イラっとくる。
 
 
 
ただでさえ天に召されている最中に
受け入れにくいことを言われ、私は
 
「なんで、私の前世であるあなたは、
 そんなにノホホンと平気なの?
 もう地上に行けなくて寂しい、とか
 逆に誇らしい!みたいのでもいいから、ないの?」
 
と、責めるように食いついた。
 
 
しかし前世は、
 
「ああ、だってあなたがラストでーす☆って
 生まれ変わる前に言われていたから。
 私があなたに生まれ変わるのを選んだから」
 
と、相変わらずノホホンと言ってのけた。
 
 
「え?あなたが選んだ?」
 
「そうね。もちろん完全に自由に選べるわけじゃないんだけれど
 ラスト現世だから、まぁまぁ融通きいたよ」
 
 
いや、おい。まるで解せない。
 
 
私でラストだったら、ほら、もっとこう、、、あるでしょ?
 
ものすごいお金持ちとか、
とんでもない天才とか、
ぶっ飛んだ才能とか、そういうの。
 
 
それなのに、普通だったよ?
 
 
もう、普通を絵に描いたような家庭に生まれ、
まぁまぁ普通の人生を送っちゃったよ???
 
 
「あー、それね。
 今までの前世たちとも相談したんだけれどね」
 
「もう、何回も生まれ変わってるから、
 いろいろとやり尽くしちゃってるみたいでさ」
 
「結局、
 ” 最後かー。じゃあ、そこそこの時代と国で、普通に ”
 って意見にまとまったんだよね」
 
「ほら、地球最後の日に何食べたい?
 みたいな妄想に ” それなら、白ご飯と味噌汁かなー ”
 って結論に落ち着く、みたいな?」
 
 
私の呆気にとられる様子を見て、
私の前世は矢継ぎ早に、こう説明をした。
 
 
そ、、、そんな。。。。
 
 
ラストだったら、もっと思いっきり楽しめばよかった。
 
心のどこかで「また来世に逢えるかな」なんて思った人もいたのに
それもないんだ・・・
 
 
しまった。
 
本気でしまった。
 
 
どうしよう、、、、もう、取り戻せない。。。
 
だって、こんな普通が、最後の最後だなんて
思っても見ていなかったから。。。。。
 
 

 
 
「、、、、おーい、大丈夫かー?」
 
 
朝。
 
起きると、見知った顔が「おはよう」と声をかけてくる。
 
 
「なんか、うなされていたみたいだけれど、変な夢でも見た?」
 
 
夢?
 
夢だったのか。。。。
 
 
よかった。。。。心の底から、よかった。。。
 
 
「ううん、大丈夫。なんでもない」
 
「そっか、それならよかった。
 ほら、急がないと遅刻するよ」
 
 
 
何でもない日常。
 
心のどこかで、ずっと続くと思っていた日常。
 
そして、心の片隅のどこかで、
「きっと、また会える」と思っている人たち。
 
 
こんな今は、もしかしたら、
思っているよりずっとずっと、
かけがえのない時間なのかもしれない。
 
 
私は身支度を整えて、いつもの道を駅に向かって歩く。
 
 
いつ、どうなってもいいように、しっかりと。
 

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