西暦20XX年。
すでに人類は「知の霊長」の座を
他のものに明け渡していた。
現在、地球上の「知」の王者の座に君臨するのは、
そう、コンピュータ。
20世紀から人類の手によって発展してきた
コンピュータの能力は、
21世紀初頭には人間の脳に追いつき、
そして追い越していった。
現在では、地球上に住む全人類の頭脳を結集したとしても
コンピュータには かなわないであろうことは明白で、
コンピュータに「知」で立ち向かうといった愚かな行為は
誰も行おうとはしない。
コンピュータに「知」で勝とうとすること。
それは素手の人間が、
ブルドーザーやパワーシャベルと力比べをするのと
同じくらいの無謀なことだ。
とはいえ、
「コンピュータが知性の王者となった時、
人類はコンピュータにひざまづき、
隷属するだろう」
といった、過去の予見は外れ、
人々は、コンピュータとの共存を果たすことができている。
はるか昔、産業革命の頃、
「このまま歯車と蒸気機関が世に溢れたら、
私たちは仕事を失い、生きていけなくなるだろう」
とパニックに陥った人々の予測が外れたのと同様、
というわけだ。
もちろん、人々の生活は変わった。
原始時代に人類が営んでいたこと、
戦いの世の中で人類が営んでいたこと、
経済が万能だった時に人類が営んでいたこと、
そのすべてが違うように、
現在の人々の営みは、過去のものとは別物となっている。
その中で、原始時代にはなかった悩みと立ち向かい、
戦いの世の中では味わうことのなかった幸せを感じ、
経済とは違う世の主軸に右往左往していた。
しかし、変わらないこともある。
今日も一組の若い男女が、
愛をささやきあっていた。
現代の都会では奇跡のように珍しい
満天の星空。
夏の夜の風が、ほてった頬を通り過ぎてゆく。
「愛している」
男が何度も繰り返しささやく言葉に応えるように、
女は喜びに潤んだ目をそっと閉じて
少し背伸びをする。
その時。
「君タチ」
と制する声が響く。
治安を守るパトロールロボットだ。
現在では、治安維持の仕事も、
そのほとんどがロボットが務めている。
ロボットに水を差された若い男女は
ばつが悪そうに、互いの距離を少し開ける。
「帰リナサイ」
男は内心「もう少し融通を効かせてくれてもいいのに」と
舌打ちしたが、ロボット相手に異論を唱えても無駄だ。
全身が白で統一された人間型のロボットの視線を
背中に感じながら、男女は帰途についた。
「いいところだったのになぁ」
男は、気まずい空気が流れないように
わざと明るい口調で話しかけた。
女は同意するかのように微笑んだ。
「こんな時代になるなんて、
昔の人は思いもよらなかったんだろうな」
と、男が言葉を続けると、
「あら、こういう時代になることを
予言していた詩が100年近くも前に綴られていたらしいわよ」
と、女は少し得意げに言った。
「それは知らなかったな。
ロボット警官が、恋路を邪魔する予言なんて。
で、なんていう詩なんだい?」
「ええとね、たしか、、、
゛Pepper警部 ” 」