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『バーでの会話』

ここは、とあるバー。
 
初めて会った人同士も
ざっくばらんに話せる雰囲気が受けて、
いつも大賑わいだ。
 
 
今夜も新しい友達や
一夜限りのパートナーを見つけに来た人々で
ほぼ満員の状態だ。
 
 
 
そんなバーのとあるテーブルは、
一人の男のちょっとした問いかけで盛り上がっていた。
 
 
 
「なぁ。もしサバイバルに行くとして、
 自分の選んだものをたった1つ持って行けるとしたら、
 みんなは何を持っていく?」
 
 
 
男の問いかけを聞いていた数人は、
 
 
「ああ、今までも同じような質問をされた事が
 何回かあるな」
 
 
と思いながらも、知らない者同士が
場を盛り上げる話のひとつとしては悪くない、
と感じたようで、男の話に乗ってきた。
 
 
 
 
男の話を聞いていた、ある女性は言う。
 
 
「選んだものは、なくなったり
 壊れたりしないのよね?」
 
 
話を振った男は笑いながら
 
 
「ああ、選んだもの1つだけは、
 なぜか一生困ることはない、っていうわけだ。
 
 なくなったり、壊れたりしても、
 いつのまにか手に入るってことで」
 
 
 
話を聞いていた他のメンバーも、
心理ゲームじみたこの話に、だんだんと興味を抱き、
それぞれが自分の意見を言い始めた。
 
 
 
ある男は、
 
 
「やっぱり、水は必要だろう。
 1つだけなら、まず水を確保するね」
 
 
と言い、また別の男は
 
 
「いや、やっぱりマッチとかライターじゃないかな?
 火をつけられないと、どうしようもない」
 
 
と言いながら、グラスを傾けた。
 
 
 
さらに別の男が、
 
 
「うーん。釣りざおとかかなぁ。
 魚を釣れれば、とりあえず生きていけそうだし」
 
 
と言ったかと思うと、隣の女性は
 
 
「あら、それだったら、食べ物そのものを選べばいいのよ。
 選んだものは、なくならないらしいから、
 食べちゃってもまた出てくるんでしょ?
 だから私は、パンかな?」
 
 
と、いたずらっぽく笑いながら言った。
 
 
  
また別の男は、
 
 
「それなら、俺は酒だな。
 サバイバルっていうことは、場所は無人島とか
 ジャングルって事だろ?きっと。
 
 なら、俺なら酒がないとやってられないね」
 
 
と言いながら、アルコール度の強い酒を
一気に飲み干した。
 
 
 
 
 
その後も、その場にいたメンバー全員が
ああでもない、こうでもないと話が続いた。
 
 
酒の席でのたわいもない問いかけだったが、
みんなが親しくなるには好都合だった。
 
 
 
 
 
ひと通りの話が終わると、
この話を振った男が、
 
 
「みんなありがとう。
 みんなの話が聞けてよかったよ」
 
 
と言って、席を立った。
 
 
そして最後に、
 
 
「みんなの願い、かなえるわ」
 
 
とウインクして、勘定を済ませてバーを去って行った。
 
 
 
 
テーブルにいたメンバーは、一瞬
 
 
「一体、この男は何を言っているんだ?」
 
 
とも思ったが、すぐ次の話題に移っていった。
 
 
 
ここは、バー。
 
 
おかしなことを言う奴も来るだろう。
 
 
 
それより、今が楽しければいいのだ。
 
 
 
そして、しばらくすると
出て行った男の事も、さっきしていたサバイバルの話も
誰もが忘れていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「。。。で、最後の男が、酒。。。っと」
 
 
バーを出た男は、つぶやきながら
手を奇妙に動かし、魔法を完成させた。
 
 
男は、ふぅ、とため息をつくと
 
 
「やれやれ。やっとあと300人の願いをかなえれば
 自由の身になれるところまで来たな」
 
 
と、自分のやってきたことを振り返った。
 
 
 
 
「しかし、今までかなえてきた願いが、ほとんど同じだ。
 
 水とか火で、だいたい半数。
 あとは、ナイフとか、食べ物とか、お酒とか、
 あってもせいぜい家くらいだ。
 
 もちろん契約だから、願った1つのものは、
 彼ら彼女らは一生困ることはないだろう。
 
 願ったものが、水にしても、火にしても、家にしても」
 
 
 
男は一人で含み笑いをした。
 
 
「みんな自覚がないんだなぁ。
 
 今、自分たちが生きている世界そのものが
 自分が生き抜くべきサバイバルだっていうことを」
 
 
男はそう言いながら、ひとときの休息を取るために
自分の足元に転がっている魔法のランプの中へ戻って行った。
 
 

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