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『地球が飲みこまれる日』

今日は、ぼくたち天体観測マニアにとっては、
面白い天体ショーがある。
 
 
遠く遠く離れた宇宙に、“太陽”という恒星がある。
 
 
その太陽の周りを回っている惑星のひとつに
“地球”という惑星があり、
今日は、その地球が太陽に飲み込まれてしまうという
天体ショーが観測できるのだ。
 
 
 
完全に眉唾ものの伝説では、
ぼくたち人類は、何十億年も前には、
あの“地球”という星に住んでいたという話もある。
 
 
“地球”から人類は生まれて、
遠い遠い祖先が苦労して宇宙に飛び出し、
宇宙への移住が始まった。
 
 
 
そんな神話じみた話もあるので、
一部の宗教家や、怪しい話が好きな連中の中には
 
「新しい時代が始まる」
 
とか言って騒いでいる人もいる。
 
 
 
 
 
ぼく自身は、そんなホラ話はどうでもよかった。
 
 
 
だいたい、あんな小さな星に
全人類が住めるわけないじゃないか。
 
 
だから、ぼくとしては
純粋に天体ショーとして
 
「恒星に飲み込まれる惑星」
 
を見てみたい。
 
 
そんな気持ちから、今望遠鏡をのぞきこんでいるんだ。
 
 
 
 
 
星を見るのが好きなぼくが
誕生日に買ってもらった、この天体望遠鏡。
 
 
小型だけれど、何千億光年の先でも
手に取るように見ることが出来る。
 
 
ぼくの年齢で、これくらいの性能の「おもちゃ」を
持っている人は、なかなかいないだろう。
 
 
今のぼくの、一番の宝物だ。
 
 
 
さぁ、この「相棒」と一緒に、
じっくりと天体ショーを見ようじゃないか。
 
 
 
 
 
 
天体ショーは、非常にゆっくりとしたものだ。
 
 
ただ、いざ飲みこまれる瞬間は、
あっという間の一瞬だろう。
 
 
もちろん、望遠鏡に組み込まれたカメラで
映像を撮ってはいるけれど、
やっぱり、その瞬間は自分の目で見たい。
 
 
ぼくは、休むことなく望遠鏡をのぞき続けていた。
 
 
 
 
 
ずっと観測を続けていると、とうとう
地球の周りを回っている、小さな小さな衛星、
“月”が、太陽に飲み込まれた。
 
 
ぼくの望遠鏡でも、
よく目を凝らしていないと見逃してしまうほど
とてもあっけなく、月は蒸発した。
 
 
燃えさかる炎をまとった太陽の舌にひとなめされ、
月は太陽の一部となった。
 
 
 
「もし、神話のとおりに、
 地球に人が住んでいたのだったら。。。」
 
 
 
あの月を見て、はるか昔の人たちは、
思いを馳せていたりしたのだろうか?
 
 
その時の人類も、
ぼくたちと同じような悩みや苦しみを持っていたのだろうか? 
 
 
人類は、進化しているのだろうか?
それとも、退化しているのだろうか?
 
 
 
 
 
ぼくは、ガラにもないことを考え始めている自分に
急に恥ずかしくなり、
 
 
「ははっ、バカバカしいな」
 
 
と、独り言をつぶやいた。
 
 
 
 
 
 
そして、ほどなくして。
 
 
 
 
今度は、惑星である地球が、太陽に飲み込まれる。
 
 
今日の天体ショーの、メインイベントだ。
 
 
 
たぶん、月の時と同じように
あっけない幕切れなんだろうけれど、
それでもやっぱりワクワクする。
 
 
ぼくは、今まで以上に目を凝らして
地球が太陽に飲み込まれる瞬間を見逃さないようにした。
 
 
 
 
太陽が、地球にせまる。
 
 
地球が、その存在を完全に宇宙から消す。
 
 
 
その瞬間。
 
 
 
 
 
 
「あっ」
 
 
 
 
 
 
 
地球が太陽に飲み込まれる、ほんの数瞬。
 
 
 
宇宙空間に、文字が浮かび上がった。
 
 
見間違えかもしれない。
 
目の錯覚かもしれない。
 
 
 
 
でも、ぼくには、はっきりと文字が見えた。
 
 
 
 
 
文字。
 
 
 
 
 
「LOVE」
 
 
 
という文字が、地球が消える瞬間、
花火のように浮かび上がり、そして消えていった。
 
 
 
 
 
 
 
文字が消えた後、望遠鏡に映る星空は、
もう地球のことなんか忘れてしまったかのように
何事もなく静まり返っていた。
 
 
 
 
ぼくは、別に神話なんて信じない。
 
人類が、どこから来たのかなんて、よくわからない。
 
 
 
でも。
 
でも。
 
 
もし、本当に人類が地球からやってきたのだとしたら。
 
 
 
最後に地球を離れる時に、
人類は、いつか地球が太陽に飲み込まれる時のために、
自分たちの願いを星に刻みつけたのではないだろうか?
 
 
 
当時の技術のすべてを注ぎ込み、
宇宙に最後のメッセージを放つ。
 
 
 
何千万年、何十億年の、自分たちの子孫のために、
 
 
「LOVE」
 
 
を祈ったんじゃないだろうか?
 
 
 
 
 
だとしたら。。。?
 
 
 
 
 
 
人類は、そんなはるか昔の人が祈ったようには、
進化なんかしていない。
 
 
今でも、「愛」は、必要とされていながら
充分じゃないかもしれない。
 
 
でも、
 
 
ぼくたちは、今もこうやって生きている。
 
 
それはきっと、ほんのささやかなものだとしても、
この世に「愛」があり続けるからなんじゃないかな?
 
 
 
そんなことを考えながら、
ぼくは、もう一度望遠鏡をのぞきこんでみた。
 
 
 
望遠鏡の先には、静かに宇宙が広がっていた。
 
 
いつもと同じように。
 
いつもとは違う思いを、ぼくに感じさせながら。
 
 

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