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『引き寄せの法則』

彼女は、さっき友達に見せてもらった
素敵な腕時計を思い出しながら、
また、ため息をついた。
 
 
「はぁ、いいなぁ。
 とっても素敵だったなぁ、あの時計。
 
 私も、素敵な腕時計が欲しいなぁ」
 
 
彼女は、腕時計をつけている自分を
ぼんやりとイメージして、
 
 
「どうか、あんな腕時計が手に入りますように」
 
 
と、心から願った。
 
 
 
 
 
「お!願いごとが飛んできたぞ!」
 
 
彼女を担当している天使が、
願いごとが発信されたのに気づき、昼寝を中断した。
 
 
「なになに?
 ふーん、腕時計が欲しいのか。
 
 もう少し、どんな形の腕時計が欲しいのか、
 ちゃんとイメージしてもらうと助かるんだけれどなぁ」
 
 
いつもの通り、あいまいな願いごとだな、とは思うものの、
彼女の願いを届けるのが、天使である自分の仕事だ。
 
 
天使は、さっそく願いごとをかなえるために、
動き出した。
 
 
 
 
 
 
まず、天使が向かった先は、天界にある
 
「願望局 日本支店 申請窓口」
 
だ。
 
 
 
天使は窓口につくと、いかにも融通の効かなさそうな
メガネをかけた役人天使に声をかけた。
 
 
「あの、私の担当している女性が、
 素敵な腕時計が欲しい、と願っているので、
 彼女に腕時計をもたらして欲しいんですけれど?」
 
 
役人天使は、愛想のない表情のまま、
 
 
「では、この申請書に、あなたが担当している女性の
 名前、住んでいる星、住んでいる国、性別、年齢、
 今までの善行、今回生まれた経緯などの必要事項を記入してください。
 
 そして、今回欲しいものを願った経緯、
 欲しいものの詳細、
 そのために支払う労力の見積もりなどを
 欄の下に記入してください。
 
 全ての項目を正確に記入した後、
 あなたのサインをして、窓口に提出してください」
 
 
と、紋切り型の口調で説明をした。
 
 
 
 
天使は書類を受け取ると、
 
 
「またいつもの手続きか。
 もっと、こうスピーディーに出来ないものなのかな」
 
 
と思いつつも、役人の言う通りに書類に記入し始めた。
 
 
 
誤字や脱字があると、書類を突っ返されてしまったり
願いごとが正しく受け取られないことがある。
 
 
今までも、何回も書類のミスを指摘されてきた天使は、
慎重に書類を埋めていった。
 
 
 
「いつも、この“欲しいものの詳細”ってのが
 難しいんだよなぁ。
 彼女、そんなに、具体的にイメージしてくれていないからなぁ」
 
 
天使はブツブツと文句を言いながらも、
出来る限り彼女が欲しいと思っているであろうものを
一生懸命考えながら記入をしていった。
 
 
すべての項目に記入をしたあと、
窓口に書類を持っていくと
役人天使は、項目に文字が埋まっている事だけを確認して
 
 
「はい、ご苦労さま。
 2週間程度で、受理か不受理かの連絡が行きますので
 本日はこれで終了です」
 
 
と、これまた感情のこもっていない言葉を発した後、
すぐに自分の仕事に戻ってしまった。
 
 
 
 
 
 
2週間と3日後。
 
天使のもとに、やっと連絡が届いた。
 
 
結果は「不受理」。
 
 
不受理の理由は、たくさんの項目の中で一か所
 
「腕時計」と書くべきところを「時計」と
書いてしまったから、ということだった。
 
 
「それくらい、文面全体から、わかるじゃないか。
 本当に、ゆうずうが効かないなぁ」
 
 
と、天使は連絡用紙を見ながらつぶやいた。
 
 
 
天使の眼下には、腕時計のことを
覚えているのか、それとも忘れてしまったのかわからない彼女が
鼻歌をうたっていた。
 
 
 
「もう一度書くしかないな、彼女のためにも」
 
 
 
天使は、また願望局の申請窓口に足を運ぶことにした。
 
 
 
 
前回以上に慎重に慎重を期して書いた書類。
 
そして、また2週間以上の待ち時間を経て、
今度は「受理」の通知をもらう事が出来た。
 
 
 
 
「さて、これからが本番だ」
 
 
 
天使は、次に
 
「願望局 日本支店 実現課」
 
の窓口に行き、そこでも同じような書類を書き、
 
次に
 
「願望局 日本支店 実現経緯準備係」
 
の窓口に行き、さらに
 
「願望局 日本支店長」
 
の承認印をもらい、
 
「願望局 地球中央本店」
 
からの連絡を待ち、
 
他にも様々な窓口の指示に従い、
たらいまわしにされながら、
全ての手続きを完了させて行った。
 
 
同じような項目が並ぶ書類に
何回も同じような事を書き、
 
しかも、書く書類ごとにフォーマットが違う事にも
文句を言いながら、それでも慎重に手続きを進めて行った。
 
 
 
 
 
 
そして。
   

 
やっとのことで、彼女のもとに、腕時計がもたらされる日を
迎えることになった。
 
 
彼女が「腕時計が欲しい」と願ってから
1年と3ヶ月が経過していたが、
天使は彼女の願いを叶えたのだった。
 
 
いろいろと面倒な手続きがあったものの、
やはり自分が担当している人に喜んでもらえば
嬉しいものだ。
 
 
 
天使は、腕時計をはめた彼女を見下ろしてみた。
 
 
 
 
「あー、そう言えば昔、
 腕時計が欲しい、なんて思ってた時もあったなぁ。
 
 でも、なんか、こうじゃないっていうか、
 これじゃないっていうか。。。
 
 何でもっと早く、素敵なシチュエーションで
 バッチリ欲しいものが手に入らないのかしら。
 
 
 あーあ、今は時計なんかより、
 たくさんの人からの賞賛が欲しいわー。
 
 お願いします!私を華やかなステージに立たせてください!」
 
 
 
 
 
彼女のひとり言を聞くと、天使はつぶやいた。
 
 
「やれやれ。
 ほら、また“こうじゃない”“これじゃない”だよ。
 
 一体どうしたら、彼女を心から満足させられるのかな?」
 
 
 
天使はぼやきながらも、
また彼女の新しい願いごとをかなえるために、
願望局の申請窓口へと向かった。
 
 
 

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