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『鳥カゴ』

あるところに二羽の小鳥がいました。
 
ある時、いつも遊んでいる庭に行くと、
そこに住んでいる人間が鳥カゴを持って
 
「おいで、おいで」
 
と、笑顔で手招きをしていました。
 
 
ここの家の人たちは、
いつもとても幸せそうなので、
鳥カゴに入れば、優しくしてくれそうです。
 
 
二羽のうち、一羽の白い小鳥が言いました。
 
 
「僕は、あの鳥カゴに入ってみようと思う。
 幸せになれそうだ」
 
 
もう一方の茶色の小鳥は言いました。
 
 
「そうかい。俺は外で自由に暮らすとするよ。
 近くに寄った時には、また遊ぼう」
 
 
そう言って、二羽は別の暮らしをし始めました。
 
 
ーーー
 
 
白い小鳥は
思っていた通り大切にされました。
 
決まった時間にエサは出てきますし、
いつも鳥カゴの中は清潔です。
 
また、雨に濡れる心配もありませんし、
怖い思いをするようなこともなくなりました。
 
 
「ああ、やっぱり、
 鳥カゴに入ってよかった。
 彼も僕みたいに鳥カゴを選べばよかったのに」
 
 
白い小鳥は歌いながら言うと、
そこに茶色の小鳥がやってきました。
 
 
「やぁ、鳥カゴの暮らしはどうだい?」
 
「快適さ。
 君は大変だね。エサを取るのも一苦労だろう?」
 
 
茶色の小鳥は、
 
 
「まぁね。エサをひとつも取れない時もあるけれど
 まぁ、自由気ままにがんばるよ。
 こっちには、自由があるからね」
 
 
と言って、またどこかに飛んでいきました。
 
 
「ふふん。もう鳥カゴに入れないからって、
 負け惜しみなんて言って。
 ああ、僕はラッキーだったな」
 
 
白い小鳥は、用意されたエサをついばみながら、
のんびりと羽づくろいをはじめました。
 
 
ーーー
 
 
茶色い小鳥は、時に風雨にさらされ、
時には大きな鳥や人間たちからいじわるをされ、
エサを取るのも毎日が真剣勝負でした。
 
 
そんなつらい時、ふと
 
「あの時、俺も鳥カゴに
 入っていればよかったのかな。。。?」
 
と思ったりもしましたが、それでも
いつでも他の野鳥の仲間たちとおしゃべりをしたり、
全身に風を受けて空を自由に飛んでいると、
つらいことも忘れていきました。
 
 
そして、しだいにエサを取るのもうまくなり、
風雨をしのげる場所も探し当て、
自分をいじめるものたちと関わらずに
楽しく過ごしていく術を、実体験から学んでいきました。
 
 
ーーー
 
 
白い鳥は、不満が募っていました。
 
たしかに自分を飼っている人間は優しく、
いじめたりもしませんし、エサも与えてくれます。
 
でも、たまに自分に向かって
その日に起きたことを愚痴ったりしましたし、
お客さんが来た時に
 
「ほら、鳴いてごらん」
 
と、こっちの気持ちを無視して
歌わせたりもします。
 
 
また、庭に遊びに来る他の鳥たちの話を聞くと、
どうも自分のエサが貧弱で、少ないようにも思えます。
 
 
「うーん、どうも僕は
 もっといい鳥カゴに入ればよかったみたいだぞ」
 
 
白い鳥はつぶやきました。
 
 
 
茶色い鳥は、そんな白い鳥の文句を聞くと
  
「じゃあ、その鳥カゴから
 飛び出せばいいじゃないか?」
 
とアドバイスするのですが、白い鳥は
 
 
「いや、僕がここから出たら、困るだろう。
 僕は、この家になくてはならない存在なのだから」
 
と断ります。
 
 
茶色い鳥は
そんな白い鳥の文句を一通り聞き終わると、
 
 
「俺から見ると、君はとっても
 恵まれているように見えるけどね」
 
 
と言って、また自分の世界である
空に飛んでいきました。
 
 
ーーー
 
 
白い鳥は、
 
「このままではダメだ!
 もっと幸せになりたい!」
 
と思い立ち、他の鳥たちがアドバイスしてくれたり、
庭先で話していることを実践してみました。
 
 
ある時は、
エサを食べるタイミングを変えてみたりしました。
 
またある時は、
歌い方を変えてみたり、
羽ばたき方を変えてみたりしました。
  
さらに、
今のこの環境への解釈を変えてみたり、
自分が大きな鳥になったイメージもしてみました。
 
 
しかし、いくら色々なことをやってみても
特に大空を羽ばたけるように
なったりはしませんでしたし、
外のみんなから憧れられるようにもなりません。
 
 
「おかしいな。
 いろいろとがんばっているのに」
 
 
白い鳥は、自分の努力が報われず、
外にいる他の鳥たちばかりが
キラキラと輝いているように見えてなりません。
 
 
外にいる鳥たちは、白い鳥に、
 
「いや、絶対いまの君の環境はいいよ。
 外は大変だよ」
 
と励ましたり、
 
「うーん、私ならこうするけどね。
 ま、私は鳥カゴに入ったことないんだけど」
 
と、うそぶいたりしました。
 
 
中には、もっと白い鳥のことを気遣って
 
「外で取れたこのエサ、食べてみる?」
 
と言って、持ってきてくれる鳥もいましたが、
白い鳥は、
 
 
「いや、外のエサを食べることは
 この家では禁止されているんだ」
 
と断りました。
 
 
そして、鳥カゴの外に出るということ以外の
思いつく限りの色々なことを続けました。
 
 
ーーー
 
 
茶色い鳥は、いつのまにか
周囲の鳥たちが一目置く
立派な鳥になっていました。
 
 
しかしその分、
他の鳥たちの悩みを解決してあげるような役目も増え、
エサも、よりたくさん必要となりました。
 
ひどい時には、自分が食べる分のエサも
困っている他の鳥に分けてやらねば
ならないようなこともあります。
 
 
必死に生きてきて、
多くの危険と代償を払ってきた結果、
いつのまにかこうなっていた自分。
 
 
もちろん、今の状況に感謝こそすれ
不満はありません。
 
 
でも、たまに耳に入ってくる
 
 
「なんか、人気者気取りだよね」
 
「エサがたくさん取れるからって、
 大きな巣に住んで、いい気になりやがって」
 
 
と言った陰口を聞くと
チクリと心が痛みましたし、
 
 
「あなたのようになりたいんです!」
 
 
と言ってすりよってくる鳥たちも、
つまるところ自分の表面しか
見ていないことを知ると、がっかりもしました。
 
 
ーーー
 
 
長い月日が経ちました。
 
 
茶色い鳥は、白い鳥のいる鳥カゴのそばにやってきて
言いました。
 
 
「やぁ、最近はどうだい?」
 
 
白い鳥は若い頃とは違った落ち着いた表情で、
 
 
「相変わらずだよ。
 でも、ここの暮らしは暮らしで
 よかったんじゃないかな、と思っているよ」
 
 
と微笑みました。
 
 
茶色い鳥も、
 
 
「ああ、俺は俺で、
 自分の選んだことが
 よかったように思っているよ」
 
 
と微笑みました。
 
 
 
そして。
 
 
「後悔はない。ただ、、、」
 
「もし生まれ変わったら、
 今度は、鳥カゴに入ってみよう。
 君を見ていると、そんな風にも思ってたんだ」
 
 
と言って、そっと目を閉じました。
 
 
 
白い鳥は、まさか彼がそんな風に思っているなんて
想像もしていなかったので驚きましたが、
 
 
「そうか。そうだったのか。
 僕ももう、後悔はない。ただ、、、」
 
「もし生まれ変わったら
 今度は、君のように自由に空を飛ぶことを選ぼう。
 君を見ていると、そんな風にも思っていたんだ」
 
 
と、目を閉じた彼に向かって言いました。
 
 
 
そして、茶色い鳥の後を追うように
そっと目を閉じました。
 
 
 
二羽の鳥の間には、
ただいくつかの柵がある
鳥カゴがあるだけでした。
 

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