たくさんの人が、長い長い列をつくり、
自分の順番を待っている。
ある者は、恐怖に顔をひきつらせながら。
ある者は、覚悟を決めたように。
そう、ここはいわゆる「あの世」。
地上での生を終えて、
これから閻魔大王の裁きを受けるために
ずっと待っているというわけだ。
そう言う私も、長い長い列で
順番を待っているわけなのだが、
私はそれほど怖くはなかった。
私は自分の一生で、それほど悪い事は
やってこなかったつもりだ。
もちろん、多少は嘘をついたり、
人を傷つけたこともあっただろう。
でも、他の人と比べれば、本当にささいな事だ。
毎日同じ時間に起きて、
コツコツ働いて、同じ時間に布団に入る。
酒にもギャンブルにもおぼれず、
派手な遊びもしない。
ずっと真面目に、しっかりと生きてきた。
もし私が地獄に落ちてしまうのだったら、
ほとんど誰も極楽になんて行けないんじゃないか?
そんな風にも思える人生だ。
人から見れば「つまらない人生だ」と
思われていたかもしれない。
でも、最後には私のような身ぎれいな人間が
いいのだ、と思う。
長い長い列が、ゆっくりと前に進み、
残すところ、あと数人で私の裁きの番となる。
閻魔大王は、絵本に出てくるような姿そのままで、
見上げるような大きな身体と、
有無を言わせぬ、圧倒的な迫力を持っていた。
どれどれ、私以外の人は、どんな裁きをされるのか?
ちょっと聞き耳を立ててみよう。
「次!お前のことは、調べがついている。
お前は、シャバにいた時は、酒ばかり飲んで、
妻子を泣かせていたという報告が来ているが、
間違いないか?」
「、、、はい」
「家族を大切に出来なかったんだな。
罪は重い。地獄行きだ」
閻魔大王は、有無を言わせず判決を下す。
ほら見ろ、やっぱり、最後に笑うのは
品行方正な私だ。
さて、次の人は。。。
「次!お前のことは、調べがついている。
お前は、自分が創業した企業を、日本を代表するような
企業に育て上げたと報告が来ているが、
間違いないか?」
「はい。私の会社が日本を代表しているかはわかりませんが、
報告に間違いはありません」
「うむ、経済を活性化させた功績は大きいな。
極楽行きだ!」
ほぅ。
あの人は、地上では悪い噂もあったはずなんだけど、
極楽行きなのか。
まぁ、良いこともしたんだろうな。
でも、あの人が極楽行きなら、私はもう絶対大丈夫だ。
まだ前に人がいるな。
「次!お前のことは、調べがついている。
お前は、毎日毎日寝てばかりで、
働かず、食べてばかりいたと報告が来ているが、
間違いないか?」
「ううう、、、はい。そうです」
ああ、あれは地獄行きだな、
地獄の鬼に、働かされたりするんだろうか?
「うむ、休息は大事だからな。
極楽行きだ!」
え?
あれ?
閻魔大王さま、そんなに甘くていいの?
悪いことはしていないかもしれないけれど、
働いてなかったんでしょ?
やっぱり、せっせと働かないと
ダメなんじゃないんだ!?
まぁ、どんどん私の極楽行きは確定しているけれど。
「次!」
おっと、私の番だ。
閻魔大王のご機嫌さえ損ねなければ、大丈夫だろう。
「お前のことは、調べがついている。
お前は、毎日同じ時間に起き、コツコツ働いて
遊びには目もくれなかったという報告が来ているが、
間違いないか?」
さすが閻魔大王さま、分かってらっしゃる。
「はい!間違いありません」
。。。ん、なんだ?
この沈黙は。。。?
「人生は楽しむためにあるのに仕事ばかりとは
けしからん!地獄行きだ!」
そ、そんな!
「待って下さい、閻魔さま!
私は、酒にもギャンブルにも溺れず
品行方正に過ごしてきました。
そんな私が、なんで地獄行きなんですか!?」
「当たり前だろう。
人は、生まれる前に、自分自身で
自分の課題、天命を決めてシャバに降りる。
お前の今回の課題は、
“思い切り遊び楽しむこと”だった。
自分の課題をまっとう出来なかった奴は
地獄で反省し、またシャバに戻るのだ」