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『ランプの魔神』

「やっと手に入れたぞ!魔法のランプだ!」
 
 
男は長い冒険の末に、
伝説の魔法のランプを手に入れた。
 
 
この魔法のランプをこすると、
強大な力を持った魔神が現れて、
どんな願い事でもかなえてくれるらしい。
 
 
 
 
「魔神を味方につければ、もう怖いものなしだ!」
 
 
男は、胸から湧き上がるような期待感を抑えながら、
ていねいに魔法のランプをこすってみた。
 
 
すると、まわりにもくもくと煙がたちこめ、
男の目の前に、おとぎ話に出て来るような
大きな魔神が姿を現した。
 
 
 
 
 
 
「おお!あなたがランプの魔神ですね?」
 
 
男は、現れた巨人に話しかけると、巨人は
 
 
「そうだ。俺がランプの魔神だ。
 今までたくさんのことを学び、
 多くの知恵を備えた、強大な存在だ」
 
 
と、胸を張りながら答えた。
 
 
 
 
 
男は魔神に向かって、
 
 
「では、さっそくですが、私の願い事を
 叶えて欲しいのですが」
 
 
と、おそるおそる聞いてみると、
魔神は、ゆっくりとうなずいた。
 
 
 
男は、魔神の気が変わらないうちにと
急いで自分の願い事を魔神に告げることにした。
 
 
「では、私を大金持ちにしてください。
 世界の大富豪と肩を並べられるような、
 リッチな生活ができるようにしてください」
 
 
 
魔神は男の願いを聞き終わるまで、
じっくりと耳を傾けていた。
 
 
男は、
 
「さあ、魔神はどんな魔法で願いをかなえてくれるのかな?」
 
と、期待に胸を躍らせて魔神を見つめていたが、
魔神は、一向に魔法を使おうとはしない。
 
 
 
魔神はお金を生み出す魔法をかけるかわりに、
男に向き直って、こう話し始めた。
 
 
 
「あのさぁ。お金っていうのは、概念なのね。
 君がお金を持つのにふさわしい人間になれば、
 いくらでも手に入るわけ。
 
 俺も今まで有名な魔神の先生に色々教えてもらって
 気づいたわけ。
 
 “あっ、自分のあり方が大切なんだな”
 “やっぱり、感謝が大切なんだな”って。
 
 君にはまだ早い考え方かもしれないけれど、
 目先のお金を追いかけるより、
 もっと自分のあり方に目を向けた方がいいよ」
 
 
 
魔神はその後も、延々と、
 
 
「まずは自分を見つめ直さないと」
 
「とにかく行動だね」
 
「感謝の気持ちを持たないと」
 
「昔は俺もそうだったけれど、
 今は考え方が変わって、すごく幸せだね」
 
 
といったようなことを話し続けて、
一向に願いをかなえてくれそうにない。
 
 
 
 
男はしばらく成り行きを見守っていたが、
 
「どうも思っていたような感じじゃないな」
 
と思いはじめていた。
 
 
 
が、相手は強い力を持っている魔神には
違いないはず。
 
 
そう思い直し、魔神の話をひととおり聞いた後、
願い事を変えてみることにした。
 
 
 
「魔神様、わかりました。
 私の考え方が間違っていたのかもしれません。
 では、願い事をお金から変えたいと思います。
 
 えーと。
 
 じゃあ、私を女性にモテるようにしてください。
 生まれてこの方、女性にモテたことがありません。
 
 せっかく生まれてきたからには、
 一度、女性にモテる経験をしてみたいんです」
 
 
男がそう言うと、魔神は目を輝かせて
さらに話に熱を入れ始めた。
 
 
「あー、わかるわー。
 
 俺も以前は、全然モテなかったわけ。
 で、どうすればモテるのかなー?って、
 すげー悩んでた。
 
 そこで、魔神界では有名なモテの先生の話を
 聞いてみたわけよ。
 
 それでわかったね。
 やっぱり“セルフイメージ”なんだって。
 
 自分が“モテる自分”になれば、
 女性の方から寄って来るんだって。
 
 あとはテクニックとかも色々知っているから
 それは教えてあげるよ。
 
 でも、最終的には“自分しだい”ってことに
 君も気がつくと思うよ」
 
 
 
 
 

 
あー。
 
 
どうも。話が。かみあわない。
 
 
 
 
 
 
男は、魔神に対して少しイライラした声で
 
 
「いや、たしかに最終的には
 自分しだいなのかもしれないんですけど。
 
 今、私が欲しいのはですね。
 女性にモテる、という経験をしてみたいだけなんです、
 
 そんなお題目はいいですから、
 もう少し具体的なことをやってくださいよ!」
 
 
 
と怒ると、魔神は「しまった!」という顔をして、
急に態度を変えた。
 
 
 
魔神は神妙な顔をして男の話を聞き始め、
 
 
「そっかぁ、それでそれで?」
 
 
と男に近づいてきた。
 
 
魔神は男と同じようなポーズをとり、
ゆっくり、ふかく頷くようになった。
 
 
 
 
男が
 
 
「とにかく、女性にモテてみたいんですよ」
 
 
と言うと、魔神はおおげさに
 
 
「そっかぁ、君は女性にモテてみたいと感じているんだね」
 
 
と、男の言ったことをオウム返しにしてくる。
 
 
いかにも「私は君に共感していますよ」
というアピールのようで、正直、ウザい。
 
 
 
  

その後は、男が何を言っても、
 
「そっかぁ、そう感じているんだね」
 
「わかるよー」
 
「それでそれで?」
 
を繰り返すだけになり、一向に話が前に進まない。
 
 
 
 
 
 
男は、魔神とのやり取りが
だんだんとバカバカしくなってきて、
 
 
「もういいです。
 
 とにかく何でもいいんで、
 あなたができる魔法を見せてもらえませんか?」
 
 
と、魔神に言い捨てた。
 
 
 
 
 
 
すると魔神は、
 
 
「いや、俺を呼び出したのは君だろう?
 君のために、俺の愛と貢献の力を使わせてよ」
 
 
と、またもや、かみ合わない話を始める。
 
 
 
男が願い事を言うと、
 
魔神は、悪気はないのかもしれないが、
具体的な行動をとってくれるわけではなく、
 
「ありがたいお話」
 
「自分の学び」
 
「今の君にとって必要だと思うこと」
 
を話し続ける。
 
 
 
 
話が進まない。
 
人の話を聞いているようで、聞いていない。
 
正直、らちが明かない。
 
 
 
 
  

男は、今までの冒険の疲れもピークに達し、
ふらふらになりながら、最後に魔神に告げた。
 
 
 
「わかった。色々とありがとう。
 もうランプに戻ってくれ。
 戻ってください。
 それが私の願いです」
 
 
 
すると魔神は少しだけ寂しそうな顔をしてから、
 
 
「そっか、わかった。
 じゃあ、また必要な時は
 俺の知恵を借りに来てよ!
 
 君との出会いに感謝!感謝!」
 
 
と言うと、あたりに煙をまきながら
ランプの中に消えて行った。
 
 
 
 
魔神が消え去った後、
男は独り言で、こうつぶやいた。
 
 
「あの魔神が、なんで狭いランプに
 閉じこもっているか、よく分かった。
 
 どんなに強大な知恵を持っていても、
 あれじゃあ何もできないのと変わらない」
 
 
 
男はつぶやいた後、ランプをその場に放り捨てると、
そのまま帰途につくことにした。
 

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