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『祭り』

あるところに、
 
普段は男と女が別々に
暮らしている集落があった。
 
 
 
男は男だけで狩りをし、競い、ルールを作り、
毎日を暮らす。
 
女は女だけで花をつみ、おしゃべりをし、
美しくおしゃれをして暮らす。
 
 
そんな2つの集落だった。
 
 
 
集落の周りには特に危険なところはなく、
気候は温暖で、
食べ物も、まわりにたくさんあったので、
 
男女ともに、普通に暮らすのに不自由することはなかった。
 
 
多少の労働をすることはあったが、
基本的には、男も女も、自分たちの好きなことをして
過ごしている毎日だった。
 
 
 
 
そして、
 
 
年に1度だけ、
男の集落と、女の集落とが一緒になって
祭りを開くという、ならわしになっていた。
 
 
その祭りで、男も女も、異性に出会うことができ、
恋をし、結婚もすることができるというお祭りだった。
 
 
噂によれば、
 
結婚をすると、別の集落に移り住み、子供を育て、
さらに幸せに暮らすことができるという
言い伝えだった。
 
 
 
 
 
 
そこで、男も女も、
 
 
「自分たちとは全く違う人たちがいるらしい」
 
「今の生活も悪くはない。
 ただ、もっと素晴らしい暮らしがあるらしい」
 
 
と、興味津々に、祭りの日を待ち望んだ。
 
 
 
 
そして。
 
 
とうとう、祭りの日がやってきた。
 
 
 
 
それぞれの集落の男も女も、
喜び勇んで、祭りに集まってきた。
 
 
 
ただ、男も女も、異性というものに
ほとんど会ったことがないため、
どのように接すればいいのかがわからない。
 
 
しかし、男も女も
 
「男、女という違いはあるらしいが、
 大した違いではないだろう」
 
と楽観的に考え、まずは自分がいつもやっている通りに
異性に近づいてみることにした。
 
 
 
 
 
 
 
ある男は、自分の持っている槍を高々と掲げて
女に話しかけた。
 
 
「やあやあ!
 
 俺は部族の中でも、槍で獲物をしとめる名手!
 俺にかかれば、どんな強いイノシシも、
 あっという間に食糧に早変わりだ!」
 
 
そう言って男は、槍を振り上げ、
「たたかいの踊り」を踊り、
威嚇するような声をあげた。
 
 
 
それをみていた女は、呆然となりながらも
 
 
「自分が強いということを、
 どうやら誉めてもらいたいらしい」
 
 
と、不思議なものを見るようなまなざしを送った。
 
 
 
 
 
ある女は、自分の作った花飾りを男に見せながら、
 
「どう?」
 
と、聞いていた。
 
 
 
男は、どう思うか?どう判断するか?と聞かれても、
その花飾りが、狩りにどんな役に立つのかが
分からなかった。
 
 
獲物を威嚇するために使うものなのか?
 
そのまま投げて、獲物をしとめるのか?
 
罠として使うのか?
 
 
どんな目的で、どんな効果を狙って
女がそれを作ったのかが分からなかったので、
ただ黙っているしかなかった。
 
 
 
 
 
 
 
また別の男は、酒の早飲みをし始めた。
 
 
一杯、またもう一杯と酒を飲み、
飲むたびに奇声を発しながら、
 
「どうだ!?まだ酔わんぞ!!」
 
と、胸を張った。
 
 
それをまわりで見ていた男は、
大酒飲みの男に拍手を送りながら
 
「俺も飲むぞ!」
 
「俺も!」
 
と、我先にと争うように、酒を飲み始めた。
 
 
 
それを見ていた女は、男たちが何が楽しいのか
まったく分からなかったし、
 
むしろ、自分たちがかまわれていないことに
寂しさすら感じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
別の女は、自分たちの集落にいる人たちのことを
男に話していた。
 
 
「でね、あの人は、ちょっと怒りっぽいの。
 この前、みんなで木の実を拾いに行った時も
 一人だけ“川できれいな小石をみつけたい”なんて
 わがままばっかり。
 
 もう、ホント、イヤになっちゃう」
 
 
 
男は女の話を聞きながら
 
「これは、俺の出番だ!」
 
と考え、ウキウキして、女に話し始めた。
 
 
 
「それならば、木の実を拾いに行くグループと
 川で小石を拾うグループに分ければいい。
 
 もしくは、木の実を拾いに行く日と、
 小石を拾いに行く日を、あらかじめ決めるといい。
 
 ところで、木の実は食べるのだろうが、
 小石は拾ってから、どんな武器にするのだ?」
 
 
男は自分の頭の良さに満足していたが、
女は、モヤモヤしたままだったので、
また別の女の話をおしゃべりしはじめた。
 
 
「でね、あの子!あの子はね。。。。」
 
 
  
 
 
 
 
 
 
祭りが続いていく中で、
 
 
 
男たちはそれぞれ、
 
 
「どうも、女たちに、
 自分の強さが伝わっていないらしい」
 
 
と思い、さらに必死に
 
 
「自分が、いかに狩りが上手く、強いか」
 
 
を女にアピールした。
 
 
 
 
 
女たちはそれぞれ、
 
 
「どうも、男たちに、
 自分の思いが、わかってもらえない」
 
 
と感じ、さらに必死に
 
 
「自分が、どんなことを感じているのか」
 
 
を男に表現し、察してもらうようにした。
 
 
 
 
 
そして。
 
 
夜も更け、祭りは終わった。
 
 
 
 
 
男たちは、男たちの集落へ。
 
女たちは、女たちの集落へ。
 
 
それぞれ帰って行った。
 
 
 
 
別れぎわ、それぞれ
 
 
「今日は楽しかった!」
 
「ありがとう!」
 
「また、祭りで会おう!」
 
「うれしい!」
 
 
と、口々に言いながら。
 
 
 
 
 
 
その後、男たちは男たちの集落で。
 
 
男同士だけで、自分たちの
強さのアピールの仕方の改善策を語りあった。
 
どの女が、性的魅力が高かったかを
大声で評価し合いながら。
  
 
 
 
 
その後、女たちは女たちの集落で。
 
女同士、どうして分かってもらえないのかを
おしゃべりし合った。
 
どの女が、自分たちを出し抜いて
男に色目を使っていたのかを
ささやきあいながら。
 
 
 
 
 
 
 
・・・
 
 
今日も
 
ピカピカの名刺を胸ポケットに入れた男と、
おしゃれに着飾った女が、
 
出会いを求めて、街に繰り出す。
 
 

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