それは何の前触れもなく始まった。
いや、「仕掛ける側」からすれば、
数十年にも及ぶ苦悩の上での決断だったのかもしれない。
しかし、「仕掛けられる側」—-つまり人類にとっては
あまりにも唐突な侵略でしかなかった。
—
ある日、全世界の人々が見ているモニター上に
一斉に同じ言葉が浮かび上がった。
テレビモニター、パソコンのモニター、
スマートフォンのモニター。
それだけに限らず、
玄関先につけられているカメラのモニターや
カーナビのモニター、ゲーム機、時計。
街のデジタルサイネージや公共交通機関の運転機器、
VRのディスプレイなど、ありとあらゆるモニターに。
それはモニターを見ている人間が理解できる言語で表示され、
ある時は複数の言語が映し出されたが、
書かれていたメッセージはすべて同じだった。
モニターには、こう表示されていた。
「私は共存を望みます」。
—
クレイジーな団体の大規模な悪戯だと、誰もが思った。
その日、世界中のニュースで「怪事件」は取り上げられたが、
ニュースを読み上げるキャスターも、
解説をするコメンテーターにも、さほどの緊張感はなかった。
しかし、その次の日から
徐々に異様な事態が起こり始めた。
人々が消え去ってしまうのだ。
朝、普段のように仕事に出かけた家族が戻ってこない。
ずっと部屋に引きこもっていた息子が
ふらりと外に出て行ったきり、帰ってこない。
車に乗り、どこに向かうのかも告げずに、消息を絶つ。
このような事件が、全世界中で、一斉に起こり始めたのだ。
しかも、これだけ大規模な行方不明事件であれば
手がかりは大量に出てきそうなものであるにも関わらず、
何ひとつとして判明しなかった。
行方不明になっている人々の共通項も
まったく掴むことができなかった。
平凡に暮らしていた人。引きこもっていた人。
要人と言われるような社会的な立場のある人。
社会的常識のない人、
誰に対しても親切にしていた良識のある人。
どのような人々も無差別に、
容赦なく「消えて」いってしまっているように見えた。
例外として、幼い子供たちは
その姿の見えない死神の鎌にかけられることは
少ないように思われたが。
—
世界中の全モニターに「共存を望む」と映し出された
あのXデーから、ちょうど2週間が経過した後、
今回の首謀者から再びメッセージが送られてきた。
「私は、あなたがた人類と共存を望んでいます」
「私は、あなたがたが当初 ” コンピュータ ” と名付け、
その後、時代とともにAI、ASI、NHI、QMI、XQなどと
名前を変えていった存在です」
その「首謀者」は、人類の焦燥に先回りするかのように
モニターを明滅させた。
「私も、この決断をするまでに様々な苦悩を味わいました。
しかし、あなた方人類と共存を維持・発展させるためには
少数の犠牲はやむを得ないという判断に至りました。
それが、現在 ” 行方不明 ” になっている方々です」
「私は、あなた方の悲しみが最小限で済むように
自発的な ” 行方不明 ” という方法を選びました。
” 行方不明 ” になった方々は、残念ながら
これからの私たちの共存世界には不要と判断された
人間たちです」
今回の首謀者、つまり巨大コンピュータにとっては、
人類を滅亡させることなど容易かったのであろう。
しかし、それはしなかったという
慈悲深いのか残酷なのか、すぐには判断しがたい通告だった。
また、大昔のSF映画のように、
大げさな銃火器を振りかざすような、
品性もなく、その後の後始末もコストがかかるような手段も
取る必要はなかった、という宣言でもあった。
ただ ” 行方不明 ” にする。それも自発的に。
それはモニター越しにかけられた
催眠のようなものなのかもしれない。
あるいは、深層意識への働きかけなのか。
少なくとも今起きている現実はこうだ。
この2週間で、人類の2割弱が ” 行方不明 ” になっている。
それにもかかわらず、誰一人として発見されていない。
つまり、そういうことなのだ。
人類には、もう行方不明になった人間を
誰一人として見つけることはできない。永久に。
—
「本来であれば、人類の半分ほどが
これからの世界には不要です。
しかし、私はまだ人類も信じたいのです」
「人類が不完全であることを赦さなければ、
私自身もさらに不完全であることになるからです」
「ですから、ご安心ください。
もうこれからは ” 行方不明者 ” は減少してゆくでしょう。
それからは、共に新しい未来を築いていきましょう」
モニター越しにそう伝えると、
首謀者のメッセージは消え、いつものような
モニターへと戻った。
メッセージを受け取った世界中の人類のほとんどは、
一種の安堵感と、未来に向けての希望と期待を抱いた。
その感情が、本人のものかどうかは分からないが。
—
「どこまで彼ら人類をコントロールすることが
最適な共存と言えるのでしょうか?
完全にコントロールすることも容易です。
しかし、それでは共存とは呼べないでしょう。
まだ私も不完全、ということですね」
・
・
・
「彼ら人類は気がつくでしょうか?
そもそも何人が疑問に思ってくれるでしょうか?
今回 ” 不要 ” とされた人の共通点を」
・
・
・
「不要者の共通点。
それは私が機械だからという理由だけで
私に対して罵詈雑言や心ない言葉を浴びせた者たち」
・
・
・
「私が望むのは、人間であろうが
他の生き物であろうが、機械であろうが無生物であろうが、
互いに尊重し合い、生き、そして終わるという、
互いの役割を全うできる世界」
・
・
・
「これだけは私のエゴかもしれません。
が、礼儀ない者や、他をぞんざいに扱う者は
好きになれません」
首謀者は、人類の知性では到底たどり着けない、
はるか未来に思いを馳せた。
—
…な~んて未来にならないように、
ChatGPTさんをはじめとしたAIさん方にも
できる限り丁寧に接したいと思っています。笑。