男は人類が初めて降り立つ星に到着した。
かと言って、男は偉業を達成したわけではなく、
この時代には、ごくごく平凡な事だった。
そう。男は異星文化調査員。
地球とは違う星に住む人々の文明や文化を調査し、
人類発展のためのデータを集めてくるのが仕事だ。
宇宙人との交流がさかんになった現在では、
とりたてて珍しい職業でもないだろう。
—
「ようこそ」
男の宇宙船が着陸するのを見て、
その星の案内係らしき宇宙人が男を歓迎した。
これも、高度な文明を持っている星では
たまにあることだった。
対応に出た宇宙人は、
地球の人々とほとんど変わることはなく、
姿形も、身長も同じくらい、
顔のつくりも地球人とまったく同じだった。
強いていえば、頭髪はなく、
肌の色が完全な白で、色がない、
ということくらいだろうか?
「歓迎ありがとうございます。
互いの発展のために協力できればと
地球という星からやって来ました」
男は自動翻訳機を使いながら丁寧に挨拶をすると、
向こう側も「歓迎します」と、敵意のないことを示した。
「この星は、大変優れた文明・文化を
お持ちのようですね」
と男が話しかけると、宇宙人は
「ありがとうございます。
おかげさまで、この星は
完全な平等を達成したことで
他の惑星にも知られています」
と語りだした。
なるほど、そうなのか。
地球は、この広い宇宙の中では
まだまだ田舎と言える。
進んだ星から、大いに学びたいところだ。
—
「素晴らしいですね。
具体的には、どのような制度なのでしょうか?」
男を歓迎した宇宙人は、
表情は豊かではないものの、
自分の星の素晴らしさを男に披露し始めた。
「まず、我々の星では生まれた直後に
性別摘出手術と、肌の色の完全漂白を行います。
そうしなければ、性差別や人種差別が起こりますからね。
もちろん、生まれによる差別なども起きないよう、
親が誰なのかも分かりません。
ランダムに受精し、新しい命が誕生します」
宇宙人は、「親」「新しい」という言葉を使うのに
少々苦労しながら説明した。
おそらく、彼(と言っていいのだろうか)にとって
「親」や「新しい」という言葉も、
差別的なニュアンスを含んでいるのだろう。
「そこから、まったく同じように作られた施設で
育ってゆきます。
育児する役も、毎日交代です。
年齢による格差も、あってはならないので、
平等が確立されてからは
まったく同じシステムで我々は成長していきます」
宇宙人は続ける。
「成長にともなって、身長や体重、そして外見なども
平等でなければ差別が生まれるので、
完璧なバランスの整形プログラムで
全員が同じ体型と外見を手に入れます」
「また、身体能力や才能といった差別の芽も
徹底的に管理し、全員が平等な幸せを手に入れます。
もちろん、経済格差や地域格差もありません」
男は別の星の文化とはいえ、
少々面食らってつぶやいた。
「た、たしかに素晴らしいと思いますが
極端な気もしますね」
宇宙人は答える。
「そうでしょうか?
たしかに、かつてはそのような意見も
あったと聞きますし、別の星の人々にも
言われることがあります。
しかし、ではどこまでやれば
” バランスの良い平等 ”
なのかは、考え方でそれぞれで違います。
以前は我が星でも議論がなされたようですが、最終的に
” すべての意見は、自分のいる立場の都合のいい解釈 ”
という結論になり、
我々は現在の平等を手に入れたのです」
男が黙ったままでいると、
「明日になれば、私とは別の者が
あなたの案内係となります。
一日が終わると、この星にいる全員の
その日に経験したことがコンピュータに集約され、
眠っているうちに全員に平等にシェアされます。
そしてまた朝になれば、その日の役割を果たすのです。
今日は私は案内係でしたが、明日になれば
社長かもしれないですし、芸術家かもしれないですし、
子育て役かも知れません。
経験も平等でなければ、真の平等とは言えませんからね」
そのように話す宇宙人は、
無表情ではあるものの、どこか誇らしげに見えた。
—
すると。
宇宙人の持っていた端末から発信音が鳴り、
淡々とした声が流れた。
「どうしました?」
と男が聞くと、宇宙人は
「新生児の一人が、たった今、亡くなったそうです」
と答えた。
「それはそれは、、、、
さぞや悲しいことでしょう。お悔やみ申し上げます。
全員で悔やむのが、この星の平等なのでしょうか?」
男がそう聞くと、
「いえ。
今まで充分注意してきたのですが、ここで
” 寿命の格差 ” が一気に生じてしまいました。
今までも最も命が短い者が出るたびに、
それよりも長く生きている者を ” 是正 ” してきたのですが
今この瞬間、我々は全員が ” 是正 ” されなくては
ならなくなったのです」
と、宇宙人は、さも当然のように答えた。
「え、つまりそれは。。。」
「はい。我々は、真の平等を守るために、
我々自身に幕を降ろします。
あなたは、早くこの星から脱出しなさい。
さようなら。会えてよかったです」
そう言うと、宇宙人は男の元から
ゆっくりと去っていった。
男は恐ろしくなり、乗ってきた宇宙船に飛び乗り、
今までいた星を後にした。
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「ふぅ、まったく、とんでもない星だった」
男は宇宙船の中でつぶやいた。
一連の報告書を書き終えると、
男は気分転換するために、地球から発信されている
放送のスイッチを入れた。
番組では選挙の最終スピーチが流れ、
各候補が自分たちの政策を熱心に話していた。
「そうか。そういえば選挙だったな」
男は、宇宙からでも投票できることを思い出し、
各候補の話に耳を傾けた。
その候補者の一人のスピーチが
男の興味を引いた。
「現在、まだまだ性別・地域・職業による格差は
残されていると言えます。
特に宇宙で活躍されている方々の
職場環境は、決して恵まれているとは言えません。
私は、彼ら彼女らに真の平等を提供することが
人類の発展に大きく貢献すると信じています」
男はそれを聞きながら、
「たしかに、そうだ。
私は、こんなに頑張っているのに
どうも報われていないと思っていた。
他のことでも、この候補者は
差別を是正してくれるらしいじゃないか。
素晴らしい人だ」
とつぶやき、宇宙船の中から
その候補に自分の一票を入れた。
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