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『道路』

その道路は渋滞していた。
 
 
「まったく!なんでこんなに混んでいるんだ!
 先に行っているやつが、トロトロしているからだ!
 
 こっちが早く進めるように、先に行ったやつは
 どんどんスピードを上げてもらいたいものだ」
 
 
男はイライラしながらつぶやいた。
 
 
「まったく、こんなにことなら
 別の道を選んだほうが良かったな。。。」
 
 
男がブツブツと言いながら、
ふと隣の車線に目をやってみると、
さっきまで隣の車線を走っていた車が、
男の車よりも前に進んでいる。
 
渋滞具合はほぼ変わらないが、隣の車線の方が
ほんの少しだけ流れが良いようだ。
 
 
「あ!まったく!
 あいつの方が先に進むなんて許せん!」
 
男はそう言うと、立て続けにクラクションを鳴らした。
 
 
男のそんな態度を見て、助手席に座っていた女性が
男をなだめた。
 
「まぁまぁ。同じところに向かっているはずだから
 大して変わらないはずよ。
 
 それに、あっちの車とあなたとは、
 特に関わりがあるわけじゃないんでしょう?」
 
 
女性の言葉を聞いても、男のイライラは収まらなかった。
 
「たしかに知らない奴だ。
 でも、目の前で先に進まれると、イライラする」
 
 
すると今度は、男が進んでいる車線の方が
いくぶんスムーズに流れるようになり、
男がライバル視していた車よりも前に出た。
 
 
「ふふん、どうだ。まいったか」
 
 
その後も、
 
男の車とその車の位置は
ある時は男の車線の方がスムーズになり、
またある時は向こうの車線がスムーズになった。
 
そのたびに男は、
 
 
「あっちの車に負けるなんて!」
 
「ほら、やっぱりこっちの車線が正解だ」
 
「うーん、車線変更するかな。。。」
 
 
などと、勝手なひとり言をつぶやいた。
 
 
 
しばらくそんな並走を続けていたが、とある分岐で
ライバル視をしていた車は、男の車とは全く別の道へと
進路を変えて行った。
 
 
男は、その車が別の分岐を走ってゆく姿を
ちらりと見たかと思うと、
 
 
「ああ、それにしても、
 いつまでこの渋滞は続くんだ!」
 
と、すっかりその車の事は忘れて
また別の車を見つけては
 
 
「あっちの方が早いじゃないか!」
 
 
と腹を立てていた。
 
 
 
 
ラジオからは、とある有名人が
男が今から行こうとしている場所に
ヘリコプターで向かい、到着したことが告げられていた。
 
 
助手席に座っている女性が、
 
 
「このニュースには、腹を立てないの?
 あなたよりも先に目的地についているわよ?」
 
 
と男に聞くと、男は
 
 
「は? いや、だって俺とは全然ちがうから。
 車とヘリコプターなんだから、しょうがない」
 
 
と答えた。
 
 
ラジオでは他にも、
男とは別の場所で楽しく過ごしている人の話題が流れたが
男は特に関心を示す事はなかった。
 
 
「俺がこの渋滞を抜けられるかが問題なんだよ」
 
 
 
男はその後も、
隣の車線を進む車を見てはイライラし、ライバル視をし、
 
「まったく、みんな何でこの道を選ぶんだ?」
 
「渋滞の一番先頭は、一体何をやっているんだ!?」
 
と、文句を言い続けていたが、目的地に近付くにつれて
道路は次第にスムーズに流れるようになり、
とうとう渋滞を抜けだすことができるようになった。
 
 
 
 
渋滞を抜けた。
 
 
 
 
「ふぅ。
 やっとここまできたな」
 
男は大きく深呼吸をすると、
鼻歌交じりで運転をしながら、助手席の女性に話しかけた。
 
 
「なかなか良い景色じゃないか。
 こんな景色をじっくり見て、のんびりドライブできるのも
 いいものだな」
 
 
女性は男に、
 
 
「まだ渋滞にハマっている後ろの車のために
 スピードをあげたりはしないの?」
 
 
と聞くと、男は
 
 
「何を言っているんだ?
 ここまで苦労してきたのに、なんで後ろのやつらに
 気をつかわなきゃいけないんだ?
 
 ここからは、ゆっくりのんびり、
 快適に進んで行こう」
 
 
と景色を楽しんでいた。
 
 
 
 
 
道は分岐を続け、さまざまな場所につながっていた。
 
 
男が知らない人も、どこかの目的地に到着する。
 
男と同じ道を走っていた人も、
また別の道を走る。
 
ただ、近くを走っている時があるだけだ。
 
 
男は一生、気がつくことはないのだが、
男が走っている道の名前は、
 
 
「人生」
 
 
という名前だった。

 
 

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