スポンサーリンク

『 Called Rein 2118 』

『 Called Rein 2118 』
 
西暦2118年7月26日。
今日も、わたしはハウスキーピングに
明け暮れていた。
 
 
今は野菜を作るのも、他の食べ物を作るのも、
料理するのも、服を仕立てるのも、家を建てるのも、
ロボットが無料でやってくれるが当たり前。
 
 
コンピュータをメンテナンスするのもコンピュータがやり、
どんな作業も全部機械がやってくれる。
 
 
裁判も、政治的な判断も、
人間には到底思いつかないような
大局的な見地から、テクノロジーが決めてくれる。
 
 
 
わたしが生まれる前には、
 
「機械に支配されるのか!?」
 
と、大議論になったらしいけれど、
ごく一部の、権力を持った人間が
自分の損得勘定や保身のために大勢を巻き込むよりも、
ずっと公平に決まってる。
 
 
わたしは自然にそう思うし、
いま生きている人のほとんどは、
 
「一部の人間が決めていた昔に戻ろう」
 
なんてクレイジーなことだと分かっている。
 
 

 
 
生きるために必要なものは、すべて無料。
 
 
無人の車が大抵のものは届けてくれるし、
行こうと思えば、ほとんどの場所に行ける。
 
人工知能とロボットが、生きるためのすべてを
用意してくれる。
 
 
そんな世界になってから
わたしは生まれたから、
それのありがたさなんて、わからない。
 
だって、食べ物とか住むところって、
空気みたいなものでしょう?
それを普段からありがたがるなんて、ちょっと無理な話。
  
 

 
 
え?じゃあ、なんで働いているのか?ですって?
 
 
当たり前じゃない。
高レビューが欲しいの。
 
わたし自身を、みんなに「素敵」って
評価されたいに決まってるじゃない?
 
 
 
今の時代「 Rein(ライン) 」での
高評価が欲しくない人なんて、いないんじゃないかしら?
 
 
Reinは、「手綱」とか「制御」って意味から名付けられた
端末だけれど、みんなこの端末から評価を送り合うのは
今では常識。
 
 
Reinでのフォロアーの数。。。ううん、数だけじゃダメ。
 
「どんな人からフォローされているか?」
 
というフォロアーの「質」が良ければ良いほど、
みんなから「素敵」って認められている証拠。
 
 
Reinで評価が上がれば、
それだけ「素敵な人」ってことなんだから、
誰だって頑張るに決まってるじゃない?
 
 
「素敵な人」になれば、
もっと「素敵な人」とのつながりも増えるし、
とびっきりのぜいたくも出来るようになる。
  
 
何かを「やる!」って言えば、
それをみんなが支援してくれる。
 
でも、評価が低いと、誰も見向きもしやしない。
 

支援してもらえば、
普通の人なら手に入れることができないコインを使って、
ロボットが用意したものじゃないサービスだって
どんどん受けられるようになる!
 
 
何でも手に入れられる今だからこそ、
人が時間をかけて作ったり、
人にサービスされるのが気持ちいいし、ぜいたく!
 
 
わたしはまだまだレビューが低いから
そんなぜいたくできないけれど、
いつかみんなから注目される「高評価な人」になるのが夢!
 
 
そんな「素敵な人」になるためにも、
Reinでの「わたしのレビュー」を上げなくっちゃね!
 
 
そのためには、「素敵な人」のお家の
ハウスキーピングは、けっこう狙い目!
 
どうせ掃除ロボットがピカピカにするんだけど、
 
「ハウスキーピングを、
 ロボットじゃなく、人がやっている」
 
ということが、「雇い主」にとっては大切だし、
わたしはわたしで、そんな「素敵な人」から
いいレビューをもらえるのだから、お互いさま。
 
 
そんなわけで、今日もせっせと
ハウスキーピングに回る、ってわけ。
 
 

 
 
「今日もありがとう、じゃあ行ってくるわね」
 
と、わたしの「雇い主」は、
わたしのReinに「いいね!」をしてくれたあと、
たくさんの「素敵な人」がいる会場へと向かって行った。
 
ロボットが自動操縦する車の方が安全なのに、
やっぱり人が運転する車に乗って。
 
 
「いいなぁ。。。」
 
わたしは笑顔で見送りながら、
気持ちは少し沈んでいた。
 
 
わたしも、みんなから愛されたい!
 
Reinの評価を上げて、注目されたい!
 
 
本当はこんな、Reinと呼ばれる機械に
左右なんてされたくないけど、
でも、みんなに「素敵」と認められたい!
 
 
「しあわせになりたいなぁ。。。わたし」
 
 

 
 
いつものロボット料理店で、
無料で食べられるフルコースを食べていると
 
「隣、いいかい?」
 
と、男性が声をかけてきた。
 
 
「、、、いいけど。。。」
 
とわたしが言うと、彼は
人の好さそうな笑顔を向けた。
 
 
へぇ、かっこいいじゃない。
 
 
と思いながら食事を口に運んでいると、
 
「この店には、よく来るのかい?
 僕、はじめてなんだけれど、いい店だね」
 
と、世間話を始めた。
 
 
わたしは、
 
「そうね。
 特に、あのウェイターさんは
 気さくで、素敵よ」
 
と答えると、彼は明るく笑ってくれた。
 
 
わたしが指した「ウェイターさん」は、
ロボットのウェイター。
 
気さくもなにも、すべてのロボットが
完璧に仕事をこなすのだから、当然なのだ。
 
よかった、冗談が通じる人で。
 
 

  
 
「きみ、面白いね。
 これからも仲良くしてほしいな」
 
「わたしも話していて楽しいわ。うれしい」
 
 
食事が終わるまで会話をしているうちに
彼がとても魅力的な人なのが分かってきた。
 
 
「じゃあ、、、」
 
と、わたしが自分のReinを出して
連絡先を交換しようとすると、
 
「あ、、ええと、、、
 僕、今日自分のRein、忘れてきちゃって」
 
と、慌てた。
 
 
わたしは、ふふ、と笑ってから
 
「大丈夫よ。
 あなたの評価が高くなくても、
 連絡先の交換を断ったりしないから」
 
と彼に告げた。
 
 
男の人で、自分の評価が高くない人は
自分のReinを見せるのを嫌がる人がいる。
 
だから、彼のように「忘れた」と言って
Reinを見せるのをためらう人もいるのだ。
 
 
評価が高いからと言って
すぐに連絡先を聞こうとする人も困るけれど、
彼みたいに出さないのも、ね。
 
 
「いや、本当に忘れたんだよ。
 だから、またこの場所で会おう?」
 
彼の一生懸命さからは、嘘をついているようには
見えないし、もし嘘であっても、
それでもまた会いたいな、と思った。
 
 
そこでわたしは、
 
「うん、わかった。
 Reinに縛られない関係も、新鮮でいいよね!」
 
と、彼に笑顔を向けた。
 
 
彼はわたしの言葉に、
なぜかものすごく感激したらしく、
 
「きみみたいな人、はじめてだよ。
 絶対、またここで会おうね」
 
と、熱いまなざしを送ってくれた。
 
 

 
 
「今日は、素敵な日だったわ」
 
ベッドにもぐりこみながら、
わたしは彼との出会いを思い出していた。
 
 
最近、ちょっとReinで評価を上げるのに
がんばりすぎてたかもしれない。
 
 
人と人。
 
その人がどんな評価をされていたって、
仲良くなれば、関係ない。
 
 
人を、フォロワーの数とか、評価で見るのは
明日から、ちょっとお休みしよう。
 
 
そんな風に思いながら、
温かな眠りについた。
 
 

 
 
次の日、わたしは重大なことに気がついた。
 
 
「わたしのReinがない。。。」
 
 
どうやら、昨日の料理店に忘れてきてしまったようだ。
 
 
彼が「忘れた」と言っていたのを笑っていたわたしが、
まさかReinをなくしてしまうとは。。。
 
 
 
「んー、、、でも、ま、いっか」
 
 
なんとなく、わたしはしばらくReinのない生活でも
いいかな、と思い始めていた。
 
 
Reinに搭載されている機能のひとつ
「Reinをさがす」を使えば、きっと
あっという間に見つかる。
 
 
でも、そんなことをしないで
ちょっとReinと呼ばれる「手綱」から
解放されてもいいかな?
 
なんて気持ちになっていた。
 
 
そこからわたしは数日間、
Reinなしで過ごしてみることにした。
 
 

 
 
「本当に、今日も ” 評価なし ” でいいの?」
 
ハウスキーピングの「雇い主」は
何回もわたしに確認する。
 
 
「はい、いいんです。
 また、欲しくなったらお願いします」
 
と、わたしは笑顔で応えた。
 
 
 
 
 
Reinと呼ばれるもの。Called Rein。
 
 
それは、たしかに人とのつながりを作ってくれる
大切なもの。
 
 
でも、それだけで計れないものも、
きっときっと、たくさんある。 
 
それが分かりかけてきたんだから、
今回なくしたのは、いいきっかけだったかも。
 
 
そんな風に思いながら、
久しぶりに「彼」と会った料理店へと
足を向けてみた。
 
 

 
 
またいつもの無料フルコースを食べる。
 
 
すると。
 
 
「これ、君のだろ?」
 
と、Reinが差し出された。
 
差し出したのは、この前会った彼。
 
 
 
「困ったよ。
 すぐに ” Reinをさがす ” をすると思ってたのに
 全然その気配はないし。
 
 君に似た雰囲気の子をみつけては
 もしかしたら、と思ってこのReinに触ってもらうんだけど
 生体認証が合わなくて。。。。」
 
 
 
照れながら話をする彼から、
わたしはReinを受け取る。
 
 
Reinが、持ち主がわたしであることを示す。
 
その光は、ふわりと温かく感じた。
 
 
 
「よかった。。。
 またきみに会えて、本当に良かった。。。」
 
 
彼はそう言いながら自分のReinを取り出し、
 
 
「今日は連絡先、交換できるかな?」
 
 
と、わたしに見せた。
 
 
 
こんな自然な形なら、いいよね?
 
 
 
と、わたしは自分に確認しながら、
彼と連絡先を交換した。
 
 
「え、、、!?」
 
 
 
目を丸くするわたしをみて
彼は「そんなの関係ないんだろ?」と言いたげな
微笑みを返した。
 
 
 
彼はこの前、きっと本当にReinを忘れていたんだ。
 
じゃなければ、Reinに左右されない友達を
作りたかったんだ。
 
 
だって、彼の「評価」は、
もはや「王子様」としか表現できないほどの
素晴らしいものだったのだから。
 
 
 
わたしは微笑んだ。
 
彼も微笑んだ。
 
 
 
しあわせって、不思議なものね。
 
どんな時代になっても、
しあわせって人が作っていく。
 
 
 

 
 
 
あ、『 Called Rein 2118 』は、フェイクタイトル。
 
本当のタイトル?アナグラムだけど?
 
 
 
『 Cinderella 2118 』。
 
 
 
めでたしめでたし。
 

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク