「おう、ナカムラ。お前、部活どこにするよ?」
「おお、コバヤシか。
どうしようかなぁ。いちいち入るのも面倒くさいよな。
俺は、どこにも入らないでおこうかな、って考えてるよ」
ナカムラが答えると、コバヤシは不満げに反論した。
「おいおい、なんでそんなにやる気ないんだよ?
たしかに、どの部活を選んでも、正直しんどいと思うよ!?
でも、そこで得られる充実感があるから、
部活にはいるんじゃないのか?」
「俺に比べて、コバヤシは熱いねぇ。
でも、かったるいじゃん?
なんで自分から苦労するようなことを選ばんといけないのよ?」
ナカムラは、コバヤシの熱い思いを聞いても、
どうもやる気が出ない。
いまひとつ、ピンとこないのだ。
コバヤシは、じゃあ部活はどうでもいいよ、
と前置きをした後、質問を続けた。
「学校を卒業したら、仕事始めるじゃん?その仕事はどうする?
あと、ある程度年齢いったら、結婚できるし、
子供も育てられるようになるけれど、
ナカムラはどうするよ?」
ナカムラは矢継ぎ早に質問をされると、
「あー、それも決めなきゃいけないんだよなー。
仕事は、どこか適当なところに勤めて、
結婚も子供も、別に経験しなくていいかなぁ。
ホント、なんでこんなにメンドクサイことばっかり
あるんだろうな」
と、あくびをしながら答えた。
「あのなぁ。
お前、全然やる気ないじゃん。
せっかく今から久しぶりに現世に出られるのに、
もったいないと思わない?」
コバヤシは、話を続ける。
「だいたい、現世で体験できることなんて、
全部面倒くさいものばっかりだよ。
ここにいたら、食べ物だって食べなくていいし、
辛いことも起こらないし、働かなくていい。
でも、現世に行ったら、食べ物を食べないとダメだし、
人間関係も面倒くさいし、何かしないといけなくなる。
それでも、行きたいと思ったから、
現世に行くんじゃないの?」
ナカムラは、自分の頭の上に浮かんでいる光の輪を見上げてから、
コバヤシに問いかけた。
「そうだよなぁ。
部活も、仕事も、結婚も、子育ても、
他の面倒くさい人間関係とかも、ぜ~んぶ、
やらなくてもいいのにな。
でも、なぜかずっとやってないと、
“やりたい”“やってみたい”って思っちゃう。
で、また現世に降りたくなっちゃう。
これって、なんでなんだろうな?」
コバヤシは肩をすくめながら、
「そんなの、俺だってわからねぇよ。
なーんもしなくても、ずっと何とかなるのに、
また現世に戻って生まれたくなっちゃう。
苦労する、つらい、そんなことは分かり切っているのに
なぜか自分から飛び込んじゃう。
もしかしたら、俺たちはみんな
“面倒くさがり”じゃなくて
“面倒やりたがり”なのかもしれないな」
と、笑った。
ナカムラは、「面倒やりたがり、か。」とつぶやくと、
「わかったよ。もう少しなんの部活をするか考えてみて
天使に報告しておくわ。
現世に降りた後も、会えるといいな。
ま、その時にここで話した記憶はないんだけれど」
と言いながら、その場を去った。
コバヤシは、ひとり残された雲の上から
あらためて現世を見下ろすと、こうつぶやいた。
「ホント、なーんで
自分からメンドクサイ方を選んじゃうんだろうな。
壮大な、暇つぶしだよなぁ」