ある星の話。
その星に生まれる人は、
お母さんのお腹から出て来る時に、
みんな、小さな玉を握って生まれてくる。
玉は小さく、やわらかく、まんまるで、
その赤ちゃんによって、個別の色がついている。
お父さんの色や、お母さんの色と
同じ時もあるし、違う時もある。
そして、
その星に住んでいるほとんどの人は、
玉の評価をすることに一生をささげているので、
赤ちゃんが生まれてしばらくすると、
お父さんやお母さんは、
「この子は、私たちの玉と同じ色だ。
いい子いい子」
と誉めたり、
「この子、私たちの玉と色が違うけど大丈夫か?
なんで、色が違うんだろう?」
「君の玉とは色が同じだけれど、僕の玉とは色が違う。
僕はこの子を育てられるだろうか?」
と心配をし始める。
生まれた時はやわらかく、まんまるだった玉は、
成長するに従って、形を変えていく。
ある部分は、急激に伸びて、出っ張ったりする。
また別の部分は、傷がついたり、へこんだり、
固くなって、欠けてしまったりもする。
この星では、生まれてから死ぬまでずっと、
まんまるの玉を持って生きていく人は、まずいない。
誰もが、その人特有のかたちに姿を変えてゆく。
ところが、
この星に住んでいるほとんど人は
玉を評価することに一生を捧げるので、
毎日、誰かの玉の形を噂し続ける。
「あの人の玉は、あの部分が出っ張り過ぎだ」
「あの人のは、傷ついていて、きれいじゃない」
「あの人の玉は、形はともかく、色が好きになれない」
「あの人の玉なんか、もう玉と呼べる代物じゃないよ」
もちろん、玉の評価の矛先は、自分の玉にも向けられる。
「私の玉は、なんでこんな色なんだろう?」
「ここの傷が見えなくなったら、私は幸せになれるのに」
「ここのへこみが気になる」
「この部分も出っ張ってくれればいいのに」
「あの人と、まったく同じ色と形の玉になればいいのに」
「あの頃の玉の形が、私は一番よかったなぁ」
玉には、人それぞれ特有のかたちがあるし、
どんどん玉のかたちは変わっていく。
誰もがそのことを知っていても、
人々は、色んな悩みを抱えながら生きていく。
また、
この星の人々は、
みんなが玉の評価に命を捧げていることを、
誰もが知っているので、
自分の玉を、きれいに見せることにも情熱を燃やす。
ある人は、
玉の一部が他の人に見えないように、布で覆ってしまう。
またある人は、
自分が自信のある部分だけを、大げさにアピールする。
ピカピカに輝く部分だけを、他の人に見せようとする。
ピカピカに輝く部分だけを見せると
「すごい!」
「あの人みたいになりたい!」
と近寄って来る人もいたけれど、近寄って来る人は大抵、
見せた本人が本当に誉めてもらいたい人ではなかったし、
少しでも布で隠していた傷が見えてしまうと、
「なぁ~んだ。たいした玉じゃないんだ」
と、離れて行ってしまったりもした。
それでも人々は、
できる限りきれいな玉を他の人に見せるように
毎日頑張り続けていた。
その星に住む人は、寝ても覚めても
誰かの玉を評価し、自分の玉を評価し、
自分の好みの玉を持つ人を認め、
自分が好きになれない玉を持つ人を攻撃し、
自分への攻撃を恐れ、
自分の玉をきれいに見せることに命をかけ、
生きて、死んでいった。
ある時。
ロケットがその星の近くを通りかかった。
ロケットの乗組員たちは、窓からその星を見ながら
互いに星の感想を述べ合っていた。
「見てください。面白い星ですね」
「本当だ。よく見ると、小さい粒が、
つねに動き続けているぞ」
「粒のひとつひとつが、玉みたいな感じですね?」
「ここからではよく見えないが、
どうやらそのようだな」
「それにしても、なんてきれいな星なんだ」
「星全体が、ひとつの
完璧な光の玉になっているなんて」