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『磁石』

昔々、あるところに3本の磁石が住んでいました。
 
——
 
 
1本目の磁石は、自分のS極が大好きでした。
 
自分の中にN極があることを認めず、
「S極である自分」ばかりをアピールし、
N極の部分は、ひた隠しにしていました。
 
 
 
そして、他の磁石と自分を比べ、
 
 
「やぁ、君もS極があるじゃないか」
 
 
と、同じところがあると近づいていっては、
反発をしていました。
 
 
 
遠くから見ている分には、自分が愛するS極同士
仲良くなれると思うのですが、
近づくと、どうしても反発してしまうのです。
 
 
自分にも相手にもN極もあることを認めれば
仲良くなれたかもしれませんが、
どうしても認められません。
 
 
「なんで君もS極なのに、ぼくとくっつかないんだ!?」
 
「結局、同じと思っていたけれど別なんだね。さよなら!」
 
 
と、いつもうまくいきません。
 
 
 
そうしているうちに、自分の中にあるN極が
すべて悪いのではないか?と思いはじめました。
 
 
そこで磁石は自分を否定し、自分の身を削り、
N極の部分を「ちょきん!」と切り捨ててしまいました。
 
 
でも、なぜか切り捨てた端から、
今までは自分がS極だと信じて疑わなかった部分が
とたんにN極として目立ち始めるのです。
 
 
おかしい。いやだ。ちょきん。
 
 
おかしい。こんなのぼくじゃない。ちょきん。
 
 
そうやって、どんどん自分を短くしていった磁石は、
いつしか小さな小さな磁石になり、
いつまでも自分のN極を責め続けました。
 
 
——
 
 
2本目の磁石は、自分が賢い磁石だと思っていました。
 
他の磁石との向き合い方をわきまえている、と
考えていました。
 
 
他の磁石がN極を向けると
 
 
「やあやあ、あなたには
 そんな素晴らしいN極があるのですね。
 わたしはS極なので、仲良くしましょう」
 
 
と言い、他の磁石がS極を向けていると
 
 
「おお!なんてステキなS極なんだ。
 わたしはN極、うまくやっていきましょう」
 
 
と近づいていきました。
  
 
 
相手とは違うものを差し出す。
 
そして大きくなってゆく。WIN-WINだ。
 
 
相手が吸いつくもの。
 
相手が反発しないで喜ぶもの。
 
 
それをいつも顔色をうかがって提供していました。
 
 
 
それを繰り返しているうちに
その磁石は、とてもとても大きな磁石になりました。
 
一人でいたころとは
比べ物にならない磁力を持つようになりました。 
 
 
 
ただ、もとの自分がどこだったのかは、わかりません。
 
 
自分なのか、そうでないのか分からない
大きな磁石の一部になりました。
 
 
 
—–
 
 
 
3本目の磁石は、特にこだわりがありませんでした。
 
くっつくものとは、くっつく。
 
相手が反発しても、気にしない。
 
 
自分を責めることもなく、
自分から何かに近づこうともしない。
 
 
自分の置かれた場所で、ただあり続けました。
 
 
その磁石は、一生何もかわらない磁石でした。
 
 
 
——-
 
 
 
そして、どの磁石の一生も、
別のものたちは、さして気にも とめませんでした。
 
 
意味は、それぞれの磁石自身にだけあるのですから。

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