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『凶悪犯』

ある時、空から突然隕石が降ってきた。
 
いや、それは正確には「隕石のようなもの」だった。
 
 
それは不思議な隕石で、
大きな大きなラグビーボールのような形で
全体が銀色に光り輝いていた。
 
また、表面には文字のようなものが刻まれており、
あきらかに自然にできたものではない様子で、 
よくよく調べてみると、その銀色の表面は
地球にはない金属であることが判明した。
 
 
「これは、宇宙人からの贈りものに違いない!」
 
「いや、なにか恐ろしい兵器なのかもしれない」
 
「いずれにしても、地球人以外のものが作ったのは
 間違いがない。調べなければ」
 
 
学者たちは、一斉に表面に書かれている
文字の解読に取りかかった。
 
 
ありがたいことに表面には文字だけでなく
絵も書いてあり、それがヒントになって、
次々と文字の意味が判明していった。
 
 
 
 
そして1年後。
 
 
学者グループの代表は、
おそるおそる解読した文字の内容を
全人類に発表をした。
 
 
「間違いであればいいのですが。。。
 
 あのラグビーボールのような物体の中には
 宇宙人の凶悪犯が収容されているようなのです」
 
 
こう切り出した学者は、その後も淡々と説明を続けた。
 
 
それによると、この物体は、
とある星で何回も更生させようと試みたにも関わらず、
凶悪な犯罪を繰り返した者を「追放」するためのものらしい。
 
 
地球に落ちてきたのは、たまたま偶然で、
宇宙人が生存するのに必要な酸素や水などが
整っている星をみつけると、
自動的にその星に不時着する、という仕組みであるらしかった。
 
それは「追放」する宇宙人側からすれば、
凶悪犯への、せめてもの情けなのだろうが、
地球に住む我々からしたら、迷惑以外のなにものでもない。
 
 
 
学者は、つばをゴクリと飲み込んだ後に、
こう言葉を続けた。
 
 
「そして、大変おそろしいことに、
 あと数日のうちに、あの隕石型のボールから
 凶悪犯が出てきてしまうようなのです」
 
 
 
追放をした星の宇宙人たちは、
もし追放された星に知的生命体がいた場合にも備えていた。
 
 
たどり着いた星の人々が、
凶悪犯にどう対処するかを準備させるために、
一定期間は、隕石が開かないようにしておいたのだ。
 
 
その配慮はありがたいものの、
地球に住む者としては、感謝をする気にはならない。
 
 
 
「そんな!あと数日で、どうしろというのだ!?」
 
「どんな凶悪な奴が入っているのだろう?」
 
「まさか、不死身というわけではあるまい。
 世界中の軍隊を動員すべきだ」
 
 
 
世界中のあらゆる人が、
数日後には出てきてしまう凶悪な宇宙人の存在に
恐怖し、絶望した。
 
 
「また、あの物体ごと、宇宙に飛ばしてしまえばいい」
 
「いや、それよりも
 宇宙の凶悪犯が出て来る前に、隕石ごと破壊してしまえ!!」
 
 
さまざまな意見が出されたが、
現在の地球の技術力では、ラグビーボール状の物体ごと
宇宙に還すことは不可能であったし、
 
どんな武器を使っても、全体を覆っている
銀色の金属に、傷をつけることすらできなかった。
 
 
 
そして、
 
 
決定的な対処の方法がないまま、
とうとう銀色の扉が開いてしまった。
 
 
 
全人類が、かたずをのんで見守る中、
銀色のボールから出てきた宇宙人たちが、
ゆっくりと地上へと足を踏み入れた。
 
 
 
全体的に細い印象はあるものの、
とりたてて地球に住んでいる人間と変わらない姿。
 
 
そんな宇宙人が十数人、降りて来たのだった。
 
 
 
有無を言わさず攻撃をすべきか?
 
それとも。。。?
 
 
判断に迷っているところで、宇宙人が言葉を発した。
 
 
 
「こ、、、こんにちは。。。」
 
 
宇宙人の言葉に地球にいるすべての人々が驚いていると、
 
 
「あ、、、
 
 扉が閉まっている間も、外からの音や景色は
 入ってきておりましたので、お勉強をしておりました。
 
 お会いできて、光栄です」
 
 
と、宇宙人は言葉を続けた。
 
 
 
なにか、おかしい。
 
 
本当に、彼らは凶悪犯なのか?
 
 
それとも、このあとに、凶悪な本性が
むき出されるのだろうか?
 
 
 
しかし、地球にある嘘発見器では
彼らが嘘をついているようには反応しない。
 
また、武器らしいものも何も持っていないため、
こちらが攻撃すれば、たちどころに
制圧できてしまうようにも見える。
 
 
 
出てきた宇宙人は、地球人側のとまどいを
知ってか知らずか、普通にニコニコしている。
 
 
そして、
 
 
「あ、、、よかったら、私たちの乗ってきた
 こちらの船の中を、見てみませんか?
 お互いに、理解をした方が良いと思いますので。。。」
 
 
と、銀色の物体の方へ手招きした。
 
 
 
これは、ワナに違いない!
 
銀色の物体に入った途端、
凶悪な本性が牙をむくに違いない。
 
 
「撃て!」
 
 
恐怖にかられた軍隊の指揮官の一人が、
宇宙人に向けての攻撃命令を出した。
 
 
 
勝負は、あっけないほど簡単についてしまった。
 
 
宇宙人の方は、ニコニコとしたまま、
何が起こったのか分からないまま、
全員が銃撃の犠牲となった。
 
 
 
「結局、どれほどの凶悪な存在だったのか、
 まったく分からなかったな。。。」
 
 
学者グループは、そう呟き、
 
 
「残る研究対象は、あの銀色の乗り物だな」
 
 
と、次の目標を見定めた。
 
 
 
学者たちは、特殊な訓練を積んだ兵士に守られながら
おそるおそる銀色の物体の中へと入って行った。
 
 
そこには、地球では見たこともないような
様々な装置が並び、快適な生活ができるような
空間が広がっていた。
 
 
「凶悪犯に対して、ずいぶんと甘いのだな」
 
 
という感想を持ちながら、学者たちはそれぞれ、
自分の専門分野に関する研究を開始した。
 
 
 
 
 
そして。またさらに長い期間が経過した後。
 
 
 
学者グループは、世界のトップたちに呼び出された。
 
 
世界のトップたちは、学者たちに質問をした。
 
 
「さて、宇宙人たちの乗っていた乗り物から
 様々な研究が進んでいると思うのだが。
 
 ところで彼らは、どんな凶悪犯だったのか
 それは分かったのか?」
 
 
学者たちは質問をされると、お互いに
言いにくそうな表情を浮かべると、
 
 
「はい。それは研究の初期段階で判明しました。
 しかし、、、」
 
 
と言葉を濁した。
 
 
 
トップたちが、
 
 
「口にするのも恐ろしいような、凶悪な奴らだったのか?
 
 しかし、知らなければならない。
 善良なる地球人全体に関する問題だ。
 
 一体、彼らはどんな奴らだったのだ?」
 
 
と追求すると、学者たちは観念したかのように
言葉を続けた。
 
 
 
「では、言います。
 
 ある者は、ごくたまに嘘をついたそうです。
 
 またある者は、気に入らないことがあると、
 グチをこぼしたそうです。
 
 他には、
 仲間に対してキライと言ったり、
 ごはんを残したり、
 仲間よりも自分のことを優先したりしたそうです。
 
 どこの星から来たかは分かりませんが、
 それらが、彼らの星では受け入れがたい凶悪なことだったわけです」
 
 
トップたちが呆気にとられているところで、
学者は要約した。
 
 
「つまり、彼らは善良なる私たちと同じ、ということです」

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