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『オタマジャクシとサケ』

むかしむかしあるところで、
オタマジャクシは川に上ってきたサケに出会いました。
 
 
「こんにちは。あまり見ない顔だけれど、
 どこからやってきたのですか?」
 
「こんにちは、私は海からやってきたのよ」
 
 
オタマジャクシは「海」という言葉を初めて聞いたので、
サケに聞いてみました。
 
 
「海?海ってなんですか?」
 
 
サケは、あきれたように答えます。
 
 
「海を知らないの?
 海は、ここよりもっともっと大きくて
 たくさんの生き物たちが棲んでいる素敵な場所よ」
 
 
「へぇ。そんな所もあるんですね。
 そんなところから川までくるなんて、大変ですね」
 
 
オタマジャクシに感心されると、サケは少し誇らしくなり
 
 
「まぁね。
 でも、自分が成長できるから、がんばっているの」
 
 
と答えました。
 
 
 
オタマジャクシは、
 
「成長って、そんなに頑張ってするものなのかな?」
 
と不思議に思いましたが、
サケの気分を壊さないように、黙っていました。
 
 
 
すると、サケは
 
 
「そうだ!あなたも海に来るといいわ。
 こんな狭いところで一生を終えるなんてバカみたい。
 
 今までに会ったこともないような出会いもあるし、
 自分が成長できる体験もできるわよ」
 
 
と、目を輝かせました。
 
 
オタマジャクシは正直、それほど気乗りしませんでしたが、
サケが強く勧めるので、
 
 
「そうかな。。。」
 
 
と言葉を濁しましたが、サケの方は
やる気まんまんです。
 
 
「ほら!じゃあ早く準備をして!
 今から出発よ!」
 
 
そう言うと、オタマジャクシのおしりをつつきながら
下流へと泳ぎ始めました。
 
 
 
 
途中には、今までオタマジャクシが見たことのないような
町の風景が広がっていました。
 
 
川の中から町を見たサケは、
 
 
「ほら!こんなにすごい景色、見たことないでしょう!?
 こんな景色が見られるのも、私のおかげよ。
 成長を実感できるでしょう?」
 
 
と、得意げに言いました。
 
オタマジャクシは、たしかに
こんな景色は見たことはなかったのですが、
これが自分の成長に結びついているとは思えませんでした。
 
 
 
 
そのあとも、二匹はどんどんと海へと向かい、
もう少しで海に出る、という最下流まで泳いできました。
 
 
「さあ!もう少しで広い海よ!
 海に出たら、もっともっと大きなステージで
 成長を実感できるようになるからね!!」
 
 
サケは、疲れ気味のオタマジャクシに
なんとか素晴らしい海を見せたかったので、
 
ある時は励まし、ある時は厳しく叱咤し、
またある時は褒めながら、オタマジャクシが泳ぐのを
応援しました。
 
 
 
 
しかし。
 
 
あとほんのちょっとで海、というところまで来ると、
オタマジャクシは、
 
 
「お水がしょっぱい!」
 
 
と苦しみ始めました。
 
 
 
サケは、
 
 
「海に近付いているんだから、
 海水になるのは当然なのよ。
 
 これくらい、慣れないとダメ!
 自分の成長のためよ!」
 
 
とオタマジャクシを無理やり海に連れて行こうとしますが、
オタマジャクシは、たまりません。
 
 
「ごめんなさい。
 私には、やっぱり海は合わないみたいです。
 ここまでにさせてください」
 
 
と、サケに申し訳なさそうに言いました。
 
 
 
サケは、
 
「なに言ってるの!?
 そんなことで幸せになれると思ってるの?
 もっと頑張らないと!」
 
と叫びましたが、オタマジャクシはどうしても
先には進めません。
 
 
 
サケはしばらくがんばりましたが、
 
 
「あっそう!
 じゃあ、あなたの勝手にしたら!!」
 
 
と、プイと一人で海へと向かって行きました。
 
 
 
オタマジャクシは
 
「わたしって、ダメなのかな。。。?」
 
と少し寂しくなりながらも、自分が棲んでいた
川への帰り道につくことにしました。
 
 
 
 
 
 
一年後。
 
 
サケは、海からまた川へ上る途中で考えていました。
 
 
「あのオタマジャクシ、今ごろきっと後悔しているわ。
 私があんなに素敵な機会を作ってあげたのに。
 
 また会って、向こうが謝ってきたら
 仕方がないから、また連れて行ってあげてもいいけど」
 
 
 
 
ところが、サケが川の上流に到着しても、
オタマジャクシの姿はありませんでした。
 
 
そのかわり、一匹の立派なカエルがサケに近づいてきました。
 
 
「こんにちは。久しぶりですね」
 
 
サケは、
 
「お会いしたこと、ありましたっけ?」
 
とカエルに言うと、カエルは
 
 
「一年前、あなたに海のそばまで連れて行ってもらった
 オタマジャクシですよ」
 
と答え、
 
 
「サケさんのようにはなれませんでしたが、
 わたしはわたしで、今のここの生活に幸せを感じてます」
 
 
とにっこり笑った。
 
 
 
サケは心の中で
 
 
「なんで、チャレンジもしてないくせに幸せそうなの? 
 姿も、そんなに変わることができたの?」
 
 
と焦りましたが、言葉では
 
 
「そう。それはよかったですね。
 それでは、ごきげんよう」
 
 
と言って、一目散にその場を離れました。
 
 
 
 
サケはカエルと別れてから、
 
 
「ふん、あんな風に見た目だけ変わっても意味がないのよ。
 やっぱり、成長は体験からにじみ出るものなのよ。
 
 私の方が成長してる。私の方が成長してる」
 
 
と、一人でブツブツ言っていました。
 
 
 
カエルは、オタマジャクシの頃とはまったく違う姿で、
いつもの川で、いつものように暮らし、
 
「ああ、幸せだなぁ」
 
と、あくびをひとつしました。
 
 
 
ふと、
 
 
「あの時、サケさんについて行って、
 あのまま海に入っていたら、
 今よりも幸せな毎日になったのかな?」
 
 
と考えてみましたが、
 
 
「わたしはわたし。
 今、ここで幸せなんだから、いいじゃない」
 
 
と、穏やかな陽射しが差し込む水面を
ゆっくりと泳ぎ始めました。
 
 

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