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『修理工』

「まいどー。
 これですか、調子が悪いとおっしゃっていたのは?」
 
修理工は部屋に通されると、
目の前の、いまにも壊れそうになっているものに
目をやった。
 
 
 
修理工を呼んだ女性は、
 
 
「そうなのよー。
 ホント、最近のはデリケートで、
 すぐ壊れちゃうんですもの。困っちゃう」
 
 
と、修理工の顔を見ながら言った。
 
 
 
「どう?なおりそう?」
 
 
と、女性は修理工に心配そうな顔を向けると、修理工は
 
 
「ちょっと見てみますね」
 
 
と、修理道具を取り出した。
 
 
 
 
 
しばらく中身を見ていた修理工は、
 
 
「ははぁ。やっぱり、ココとココがすり減っちゃってますね。
 近くにあるから、こまめに潤滑油をさしてあげないと
 どうしても摩擦が起きちゃうんですよね」
 
 
と言いながら、摩擦の起きていた箇所に油をさした。
 
 
 
さらに、
 
 
「あ、ココは空回りしちゃってますね。
 その分、他のところに負担がかかってます。
 
 ちょっと歯車がかみ合っていないだけなので、
 歯車を調整すれば、すぐに動くようになりますよ」
 
 
と言いながら、かみ合っていない歯車を調整しはじめた。
 
 
 
「ココは、ブレーカーが落ちちゃってますね。
 一定以上の負荷がかかると、ブレーカーが落ちるように出来てます。
 
 でも大丈夫。
 安全装置みたいなものなので、またゆっくりと起こしてあげて、
 負荷をかけすぎないように注意すれば、また動きます」
 
 
 
 
その後も、修理工は、
 
 
「ここはネジがゆるんでる」
 
「ここは、締め付け過ぎだ」
 
「ここは、くっつけとかなきゃ」
 
「ここは、ちょっと、あそびを作って・・・」
 
 
と、テキパキとなおして行った。
 
 
 
 
 
 
そして。
 
 
「はい、これでしばらく大丈夫でしょう」
 
 
と言って、笑顔を向けた。
 
 
女性はホッとしながら、修理工にお礼を言った。
 
 
修理工は、
 
 
「まぁ、しばらくは大丈夫だと思います。
 でも、日頃からメンテナンスをしておいた方がいいですよ。
 
 よそでもそうなんですけれど、
 ついつい“まだ動いているから大丈夫だろう”と
 なかなかメンテナンスをしないんですよね。
 
 メンテナンスを怠らなければ、ずっと良い調子を保てるんですが、
 なかなか面倒くさい、というのも分かります」
 
 
と、苦笑いを含ませながら女性に話した。
 
 
 
女性は、
 
 
「これからは、ちょっと気をつけるようにするわ。
 よそでは、完全に壊れてバラバラになっちゃった、
 なんて話も聞くし。
 
 ねぇ修理工さん、ふだんのメンテナンスって、
 どうすればいいの?」
 
 
と修理工に聞くと、修理工は、
 
 
「そんなに難しいことはないんです。
 
 とにかく、潤滑油を定期的にさすこと。
 必要以上の負荷をかけないこと。
 
 あまり締め付けすぎず、遊びを持たせること。
 
 たまにネジを締めること。そんなものです」
 
 
女性は、修理工の言うポイントをメモに取ってから
こう答えた。
 
 
「本当に、とっても大切なんだけれど、
 なかなか手間もかかるのね。
 
 でも、これからもちゃんと見守って、
 ずっと愛情を生み出し続けてもらうわ」
 
 
と、いま修理が終わったばかりのものを
ポンとたたいた。
 
 
修理工は、
 
 
「大変だと思いますが、がんばってくださいね。
 必要な時は、私もお手伝いしますので。
 
 じゃあ、本日はこれで失礼します。
 ありがとうございました。天使さん」
 
 
と言いながら、玄関を出て行った。
 
 
 
修理工が出て行ったあと、天使である女性は
修理が終わったあとのものを見ながら、こうつぶやいた。
 
 
「これをちゃんと見守って、
 人間に愛情を分かってもらうのが私の役目だもんね。
 
 はぁ、でもなかなか難しいものね。
 この“家族”ってものは」
 

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