ある人が、リンゴの木を持っていた。
その木には、リンゴがたくさん実っている。
ある時、その人はお腹が空いてきたんだけれど、
リンゴを、好んでは食べようとはしない。
「だって、リンゴなんて
大して美味しくないじゃない。
他の人は、お米とか、お肉とか
もっと美味しそうなものを持っているのに」
「私も、もっと美味しいものを手に入れる!」
そうして、その人は、
他の人が持っている他の食べ物を手に入れるために、
一生懸命がんばった。
でも、なかなか他の食べ物は見つけられない。
リンゴは、ある。
でも、他の食べ物は、手に入らない。
「いいなぁ、他の人は」
「私も、お米とか、お肉とかがあればいいのに」
「ぜいたく言わないから、
リンゴ以外のものを食べたいなぁ」
自分の持っているリンゴの木に
ぶつぶつ文句を言いながら、
他の人にあこがれのまなざしを送っていた。
そんなある日、
とある男性に出会った。
その男性は、お米も、お肉も、野菜も、新鮮な魚も、
ありとあらゆるものを持っていた。
「どうして、そんなにたくさんの食べ物を持っているの!?」
と、驚いて聞くと、男性は答えてくれた。
「私がはじめに持っていたトウモロコシを
他の人にも分けていったんだよ。
そうしたら、お礼に色んなものをお礼としてもらえたんだ」
その話を聞くと、
「ふーん。
いいなぁ、はじめに持っているものがトウモロコシだったら
私も色んなものが手に入るのに。
トウモロコシだったら、いろんな事に使えるし、
欲しがる人もたくさんいるだろうなー」
「私の持っているのはリンゴ。
欲しがる人なんて誰もいないに決まってるんだから、
“要りませんか?”なんて誰かに言うのも恥ずかしい」
そうして、また
「あの人は、いいなぁ」
「あんなものが欲しいなぁ」
といって、リンゴ以外のものを手に入れようとする
日々が続いていった。
そうして時が過ぎていくうちに、
大切に育てられなかったリンゴの木は、
しだいに元気がなくなっていき、
最後には枯れ果ててしまった。
リンゴの木を持っていた人は、
もう実をつけなくなったリンゴの木の下で
お腹を空かせながら、つぶやいた。
「ほうら、やっぱり、つまらない木だった。
私は、結局、なにも持っていなかった」
リンゴの木の下に座り込んで、
その人は、ただただうずくまっていた。
そのリンゴの木には、名前があった。
最後まで、誰からも呼ばれない名前だった。
そのリンゴの木の名前は、
「才能」だった。