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『落とし穴つきエレベーター』

あなたは、なぜだか知らないけれど
床と天井が白い部屋の中にいる。
 
その部屋は本当に小さくて、
2畳くらいの大きさだ。
 
四方の壁はガラス張りで、
外には綺麗な景色が広がっている。
 
高さで言うと、3階建ての建物から
景色を見ている感じだろうか?
 
 
 
その部屋は殺風景で、何も置いていない。
 
「部屋」というよりは、
単なる「空間」という感じ。
 
 
 
 
あなたがふと床に目をやってみると、
床には、1枚のコインが落ちていた。
 
 
何気なく拾ってみると、
 
表には「幸運」。
そして裏には「不運」と書いてあるコインだった。
 
 
 
 
「変なコインだなぁ」
 
と、不思議に思いながらも、なんとなく好奇心で 
何気なくコイントスをしてみた。
 
 

コインは小気味いい金属音と共に床に落ち、
 
「幸運」
 
と書かれた表側で回転を止めた。
 
 
 
すると、その小部屋は、
エレベーターのようにスルスルと上がり、
今までとは違った景色が見えるようになった。
 
今までよりも、ちょっとだけ多くのもの、
遠くのものが見えるようになった。
 
 
 
あなたは面白くなったので、
もう1度コイントスをしてみた。
 
 
コインは先ほどと同じように床に落ち、
今度は
 
「不運」
 
と書かれた裏側が出た。
 
 
 
 
すると、
 
突然、あなたが立っていた床がパカリと割れ、
あなたは落とし穴にはまったかのように
落ちて行ってしまった。
 
 
 
「あ痛たたた・・・」
 
 
 
尻もちはついたものの、大した怪我はしていない。
 
ただ、落ちた先は、またさっきと同じような小部屋で
一度上昇する前に見えていた景色が
周りに広がっていた。
 
 
 
コインは、あなたと一緒に落ちてきて、
また床に転がっている。
 
 
 
 
「ははぁ・・・」
 
 
この部屋は、
コイントスで「幸運」の表が出ると1階上昇し、
「不運」の裏が出ると、落とし穴が開く、
という仕組みらしい。
 
 
上昇すれば新しい世界が広がって見えて、
落ちると、見える世界が狭くなる。
 
 
そんな部屋のようだ。
 
 
 
 
あなたは、より高い場所からの景色を見たくなったので
コイントスを続けることにした。
 
 
でも、当たり前と言えば当たり前なんだけれど、
「幸運」「不運」、どちらも出る確率は
フィフティーフィフティーだ。
 
 
 
あなたは、上がったり下がったりを繰り返して
気持ちよく上昇したり、
落ちて尻もちをついたり、を繰り返した。
 
 
 
 
たまに、連続して「幸運」が出続ける時もあった。
 
その時は、自分が何か別の存在になったかのように
浮かれて、調子に乗った。
 
 
 
でも、
 
トータルでは50%の確率なんだから、
そんな時は長く続かなかった。
 
 
 
もちろん、「不運」が連続して出る時もあった。
 
 
落ちて落ちて、落ちまくって、
今まで見えていた景色が何も見えなくなり、
目の前には、真っ暗な景色しか見えなくなった時もあった。
 
 
 
 
 
あなたは、「幸運」が出続けるように、
コイントスの方法を変えたりしてみたが、
 
コインの「幸運」「不運」を
コントロールすることはできなかった。
 
 
 
「結局、上の景色なんて
 見られないのかな・・・?」
 
 
と、あなたは諦めようとした。
 
 
 
が。
 
 
諦めきれず、ある事を試してみることにした。
 
 
 
 
あなたはコイントスをする。
 
 
残念ながら、今回出たのは「不運」。
 
 
床がパカッと開き、
あなたは下の階に落ちそうになる。
 
 
その時。
 
 
あなたは必死に床の出っ張りにしがみつき、
なんとか下の階に落ちないように
へばりついてみた。
 
 
 
あなたが必死に頑張っていると、
しばらくすると床は元に戻り、
あなたは下の階に落とされることなく
今までの景色を見ることができた。
 
 
 
「なぁるほど。。。」
 
 
 
コイントスの「幸運」「不運」は
コントロールできない。
 
 
いつ上昇するか、落とし穴が開くかは
コイントスしてみなければわからない。
 
 
 
でも。
 
 
「不運」が出た時に、
落とし穴から落ちないように
必死に頑張ることはできる。
 
 
そうすれば、なんとか下の階に
落ちずには済みそうだ。
 
 
 
 
 
 
あなたはそれを発見すると、
今までのように完全に運任せにはせず、
 
「不運」が出た時には、
下に落ちないように、必死にしがみつくように
作戦を変えてみた。
 
 
 
その後も、「幸運」が連続して出ることもあれば、
「不運」が連続して出ることもあった。
 
 
「不運」が何回も連続した時には、
疲れて耐えきれず、
頑張っても下の階に落ちてしまうこともあった。
 
 
 
でも、
 
「不運の時は、しがみつく」
 
ということをやりはじめたおかげで、
ちょっとずつ、でも着実に上昇をし始め、
見える景色が変わっていった。
 
 
 
 
コイントスを繰り返し。
 
「幸運」で上昇し。
 
「不運」でしがみつく。
 
 
 
 
そして。
 
 
 
 
もう、何回コイントスをしたか
わからなくなったある時。
 
 
 
「おお・・・」
 
 
 
あなたは、四方に広がる
想像もできないような世界の広さに
驚きの声をあげた。
 
 
 
いつのまにか、あなたに広がっている世界は、
下の階にいたときとは、
まるで違うものになっていた。
 
 
 
 
あなたは、胸から湧き上がる感動を押さえられず
涙を流した。
 
 
 
「よかった・・・ここまで来て」
 
 
 
 
 
  
 
 
コインは、今も変わらず、
床に転がっている。
 
 
 
あなたの頭に、ふと
 
「そういえば、
 “コインをトスしない”
 という選択肢もあったな」
 
という考えがよぎったが、
自分の考えに、ひとり苦笑いした。
 
 
 
「バカバカしい。
 コイントスしなかったら、
 この世界にいる意味なんて、ないじゃないか」
 
 
 

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