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『歩いていこう』

道を歩いていた。
 
 
今まで、たくさんの分かれ道に出くわしてきたが、
そのたびに、その時に思うベストな道を選んできた。
 
 
もちろん、
 
 
「ああ、別の道にしておけばよかった」
 
 
と思う事はあったし、
たまに見える他の道は、
自分が選んだ道よりも輝いて見えることもあった。
 
 
でも、道を後戻りすることはできなかったし、
今の道も、悪いことばかりでもなかった。
 
 
 
 
 
大きな分岐点もあった。
 
小さな分岐点は、それこそ数え切れないほどあった。
 
 
 
大きな分岐点で、こちらの道を選んだからこそ
出会えた人もいた。
 
 
今は会わなくなった人でも、
あの人がいたから、今、私は、
こっちの道を進んでいる、と思える人もいた。
 
 
 
 
 
無限に広がる分岐点。
 
 
私は、ただ歩いて行くしかなかったから、
今日も歩いている。
 
けれど、あらためて考えると、奇跡的な道のりなのかもしれない。
 
 
 
  

 
 
今日も歩いていく。
 
道があるから。
 
 
 
昨日も歩いて来た。
 
道があるから。
 
 
 
そしてたぶん、明日も歩くだろう。 
 
そこに、道が続いているから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ふと気づくと、
 
 
道の先に、2つの望遠鏡が据え付けられているのが見えた。
 
 
 
近くまで行ってみると、そこには
 
 
「どうぞ、立ち止まってご覧ください」
 
 
という看板が立てかけられている。
 
 
 

 
 
 
  
2つの望遠鏡。
 
 
 
ひとつは、今まで歩いて来た道の方を向いている。
 
 
もうひとつは、これから歩く道の方を向いている。
 
 
 
 
「ためしに、のぞいてみるか。。。」
 
 
興味本位でのぞいてみることにした。
 
 
 
 
まずは、今まで歩いて来た道に向いている望遠鏡だ。
 
 
 
 
望遠鏡をのぞくと、そこには今よりも若い自分が
入れ替わり立ち替わり現れた。
 
 
子供の頃の自分。
 
学生の頃の自分。
 
かけだしの社会人の自分。
 
 
あの時、別の道にしておけばよかったと
後悔している自分。
 
調子に乗って、人の気持ちを考えるのを
怠っていた時の自分。 
 
まだまだ経験不足だった自分。
 
 
そして、つい最近の自分も、
そこには映し出された。
 
 
 
 
 
こちらからの声は、どうやら届かないようだ。
 
昔の自分は、入れ替わり立ち替わり現れて、
口々にいろんなことを話しては消えていく。
 
 
 
でも、どんな時の自分も、みんな口をそろえて
ひとつの事を言って立ち去って行く。
 
 
 
 
 
 
「いいなぁ、それだけ年を重ねれば
 賢くなって、私よりもいい判断ができるでしょうに」
 
 
 
 
 
 
たしかに、過去の自分から見れば、
今が一番経験を積んでいるし、たくさんの選択肢から
ものごとを判断できるのだろう。
 
 
 
「そんなものかな?」
 
 
 
と思いながら、今度は
これから歩いていく道の方に据え付けられている
望遠鏡をのぞいてみた。
 
 
 
 
そこには、今よりも年を重ねた自分が
入れ替わり立ち替わり映し出された。
 
 
 
どのような経験をしている時なのかは
こちらからは判断できない。
 
 
 
今の私とほとんど変わらない外見をしている自分もいたし、 
 
年齢を重ねて、しわが増えている自分もいた。
 
 
嬉しそうに笑っている自分。
 
少し悲しそうな自分。
 
目が輝いている自分もいれば、
 
がっかりとしているように見える自分も見える。
 
 
 
 
 
先ほどと同じように、こちらからの声は届かない。
 
未来の自分も、入れ替わり立ち替わり現れて、
口々にいろんなことを話しては消えていく。
 
 
 
 
そして、未来の自分も、先ほどとは違った事だけれど、
みんな口をそろえて、ひとつの事を言って立ち去って行く。
 
 
 
 
 
「いいなぁ、それだけ若ければどんなことだってやれる。
 がんばれよ!私!」
 
 
 
 
 
 
たしかに、未来の自分から見れば、
今の私が、一番若い。
 
 
何でもできるし、なんでも自由なのだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
過去の私も、未来の私も、
 
今の私に「いいなぁ」と言いつつも、
決してその時の自分をネガティブにとらえているのではない。
 
 
心から、今の自分の賢さを誉めたたえ、
今の自分の若さを応援してくれている。
 
 
 
そんな風に感じられた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「そっか。そうだよね」
 
 
 
 
 
 
 
私は望遠鏡から離れ、また一歩を歩きだした。
 
 
そこには、
 
過去から見れば、また一歩賢くなった自分がいて、
 
未来から見れば、まだ若々しい自分の挑戦が見えるのだろう。
 
 
 
道は無限の分岐点を紡ぎながら、
どこまでも続いていく。
 

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