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『ダイヤモンドの星』

「ダイヤモンドだらけの小惑星がある」
 
 
研究機関が発表した公式文書は、
人々をざわつかせた。
 
 
現在の科学技術でも、
地球から2年ほどで往復できる距離に位置する
小惑星群のなかのひとつ。
 
 
その小惑星に、どうやら多くのダイヤモンドが
眠っているらしい、ということが発表されたのだ。
 
 
 
 
そのニュースは、特に冒険心の強い人々の心に火をつけた。
 
 
「ダイヤモンドを持って地球に帰ってこれたら、
 一躍大富豪じゃないか!」
 
 
「どうせなら、2年くらいロマンを追ってみるのも
 悪くないかもしれない」
 
 
 
もちろん、多くの人々は
 
 
「そんなの、実際行ってみたら
 ダイヤモンドなんて、ないかもしれないじゃないか」
 
 
「2年間も危険な宇宙に行くなんて、
 バカバカしい」
 
 
という反応を示した。
 
 
 
 
しかし、そのように否定的な意見を言う人々も、
 
 
「もし本当だったら・・・?」
 
 
と、期待と想像に胸を膨らませるニュースではあった。
 
 
 
 
いつの世の中も、周りに先んじて
行動をする冒険者がいる。
 
 
 
 
このニュースを聞いて、
 
 
「よし!ならば私が実際に行ってやる!」
 
 
と決断し、実行に移す人が、何人か現れた。
 
 
 
現在では、ロケットで宇宙に行くことは
民間レベルでもできるようにはなっている。
 
 
とは言え、往復2年もかかる宇宙の旅は、
まだまだ発展途上であったし、どんな危険が待ち受けているのか
まるで分からなかった。
 
 
しかし、世界中で20を超えるグループが
綿密に準備をし、そして宇宙へと旅立って行った。
 
 
人々は、無謀とも勇敢とも言える
ダイヤモンドの星への旅を、地球から見送った。

 
 
 
 
そして、2年の月日が流れた。
 
 
 
人々が、ダイヤモンドの星のことを
忘れ去りそうになりかけたころ、
多くのロケットが地球へと帰還してきた。
 
 
 
固唾をのんで見守る人々の前で、
どのロケットの乗組員も
手にダイヤモンドの原石を抱えながら微笑んだ。
 
 
 
「間違いなく、ダイヤモンドの星でした」。
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そこから、すべての人々が熱狂する
 
「ダイヤモンド・ラッシュ」
 
が始まった。
 
 
 
 
宇宙に行ったことのある者は
「ダイヤモンドの星」を目指すことを決め、
 
 
停滞気味だったロケット工学は、
 
「より早くダイヤモンドの星へたどり着き、
 安全に帰ってくる」
 
というロケット開発に着手。
 
 
 
ダイヤモンドの星をテーマにした映画や物語が作られ、
そのどれもがヒットを飛ばした。
 
 
 
中には
 
「需要と供給の問題なのだから、
 そのうちダイヤモンドに価値がなくなってしまう」
 
 
という冷静な意見を論じる人もいたが、
ダイヤモンドの星がある、という現実の前には
 
 
「価値がなくなる前に、私だけはうまくやる」
 
 
と考える人たちの熱狂を鎮める効果はなかった。
 
 
 
 
高性能のロケット開発が進み、
 
宇宙で活動しやすい宇宙服が開発され、
 
宇宙への旅行者が増え、
 
他の産業も好景気を迎えた。
 
 
 
誰もが、ダイヤモンドのような
輝かしい未来を想像し、活気ある日々を送った。
 
 
 
 
 
しかし、そのブームも、永遠には続かなかった。
 
 
 
ブームから何年も経つと、
ダイヤモンドの星から帰還してくる乗組員から
 
 
「もう、ほとんどのダイヤモンドが
 採り尽くされてしまったようです」
 
 
「今回は、ほとんど収穫がありませんでした」
 
 
という報告が増えてきたのだ。
 
 
 
 
「ダイヤモンドの星、といっても
 無限にダイヤがあるわけはないよな」
 
 
と、ダイヤモンドの星を目指す人は
次第に少なくなっていった。
 
 
 
 
 
そしてまた人々は、
 
「また、何か面白いことがないかなぁ」
 
と、新しいブームが起きるのを
待つ生活へと戻って行った。
 
 
 
不思議なことに、ダイヤモンドの星から
多くのダイヤがもたらされたにもかかわらず、
それほどダイヤの価格は暴落しないまま、
 
ダイヤモンド・ラッシュは、
いつの間にか終息を迎えた。
 
 
 
  

 
 
 
 
「・・・今回は、長い間、本当にごくろうさまでした」
 
 
「いえいえ、こちらこそ。
 あなたあっての、プロジェクトの成功ですよ」
 
 
「色々ありましたが、おおむね成功でしたなぁ」
 
 
 
 
そう言いながら、各国の首脳が、誰も知らない密室で、
お互いの労をねぎらった。
 
 
 
「はじめは、“ダイヤモンドの星がある”なんて夢物語を、
 誰も信用しないかもしれない、と思っていました」
 
 
「やはり、事前に地球から大量のダイヤの原石を
 埋めに行ったのが、今回のプロジェクトを成功に導きましたな」
 
 
「権威ある方々も、人類の発展のために力を貸してくれました」
 
 
「人類にまん延していた停滞感を、
 まさかこんな方法で打ち破ることができるとは!」
 
 
 
国家を超えた最高機密プロジェクトの成功に、
その場にいた誰もが酔いしれた。
 
 
 
 
しかし、密室で話をしていた1人が、ぽつりとつぶやいた。
 
 
「我々は、全人類をだましたのでしょうか?」
 
 
 
その場に居合わせた誰もが、同じような良心の呵責を
感じていたのかもしれない。
 
 
つぶやきを聞いた1人は、大げさに首を振ると
 
 
「とんでもない!
 このプロジェクトのおかげで、
 人類は多くの発展を遂げたんですよ。
 
 ロケット工学も、宇宙空間で過ごす技術も、
 その他の産業も、
 この数年で、目覚ましい進歩を遂げられたんです。
 
 もしすべての人類が、このプロジェクトの全貌を知ったとしても、
 人類は我々に感謝こそすれ、誰も“だまされた”なんて
 思いもしませんよ」
 
 
と、それ以上の言及を遮った。
 
 
 
そして、窓から広がる夜空を見ながら、
自分を納得させるように、ゆっくりと言った。
 
 
「あの小惑星は、我々人類に、
 素晴らしい発展と恩恵をもたらしてくれた。
 
 まさに、ダイヤモンドの星ですよ」

 
 

 

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