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『刑務所』

「アニキ、出所おめでとうございます」
 
「おつとめ、御苦労様です」
 
 
男は子分に囲まれながら、久しぶりの自由を満喫していた。
 
 
「ああ、やっぱり自由ってのは、いいものだな。
 ずっと窮屈な毎日を送っていたから、羽をのばさなくちゃいけねぇ」
 
 
男の今回の投獄は、半分は自分の意思で決めたようなものだった。
 
今回の「おつとめ」を終える事により、
男は、この世界での出世を果たすことができる。
 
 
とはいうものの、やはり刑務所での毎日は辛いものだった。
 
 
 
 
「アニキ、ところでムショってのは、一体どんなところなんです?
 あっし、まだ入ったことがないもので。。。」
 
 
子分の一人が、おそるおそる男に聞いてきた。
 
 
男はひとつのびをすると、
 
 
「まぁ、不自由ったらないな。あそこは」
 
 
と語り始めた。
 
 
「まずは、狭い。
 自分が動いていい範囲は限られているし、
 着ているものも窮屈で、体を自由に動かせないくらいだ。
 
 しかもイヤな臭いもするし、眠る時もずっと同じで、
 閉じ込められたままだ」
 
 
男の話を聞くと、子分たちは一斉に顔をしかめた。
 
 
「さらに、毎日毎日、働かないといけねぇ。
 働かないでいると、ただでさえ悪い待遇がさらに悪くなる始末だ。
 
 自分が着ているもんも変えられないから、
 どんどんボロボロになってゆくしな」
 
 
男は刑務所に居た時のことを思い出しながら、
りんごをほうばった。
 
 
「たまに楽しい事もあるが、次の日にはまたイヤなこともある。
 同じようにムショにいるやつら同士のトラブルも、
 毎日のようにあるしな。」
 
 
 
子分の一人は、耐えきれない、といった体で男に質問した。
 
 
「ムショから脱走しよう、とするやつは
 いなかったんですか?」
 
 
男はニヤリと笑いながら子分に答えた。
 
 
「いや。けっこうな人数が脱獄をした。
 そりゃそうだ。そうとう厳しい環境だからな。
 
 そして脱獄しようと思えば、けっこう簡単に脱獄できるのが、
 今回の刑務所のいやらしいところだ。
 常に脱獄の誘惑が目の前にありやがる。
 
 しかし、脱獄をしたところで、楽になることは、ねぇ。
 すぐに見つかって、またすぐに戻るはめになる。
 今度は、もっと窮屈なモンを着せられて、な」
 
 
子分たちは心から震えあがり、
そんなひどい場所から帰ってきた男に、羨望の眼差しを向けた。
 
 
男は、
 
 
「だが、またムショに行ってもいいかな、
 なんて気持ちもどこかにあるのが不思議でならねぇ。
 ホント、始末の悪いところだ。
 
 まぁ、しばらくは戻りたくはねぇがな。
 82年もムショに入っていたんだからな。
 
 こっちでゆっくりと羽を伸ばすぜ」
 
 
と言いながら、背中に生えている羽を、思い切り広げてみた。
 
 
 
「ああ。
 
 “肉体”なんていう窮屈で面倒くさいものを着て、
 
 “地上”なんていう狭い場所で働くなんてことを
 
 よく思いついたもんだぜ。上は」
 
  
 
燦々と降り注ぐ光を浴びながら、
男と子分たちは、大空に飛び立った。
 
 
 

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