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『勲章の世界』

「えっ!?タイムマシンが完成したんですか!?」
 
助手は、おどろいて博士に聞き返した。
 
 
博士は満足げな表情で
 
「そうじゃ、やっと完成して
 たった今、未来から戻ってきたところじゃ」
 
と言いながら、銀色に輝く
ボール状の乗り物を指差した。
 
 
助手は驚きながらも、目を輝かせて
 
「博士!ぜひ僕も乗せてください!」
 
と言うと、博士は、
 
「もちろん、いいとも。
 これから一緒に、もう1度未来に行ってみよう」
 
と笑顔で答え、助手にタイムマシンに乗りこむように
うながした。
 
 
 
 
 
 
…タイムマシンは無事未来に辿り着き、
二人は、未来の地に足を踏み入れた。
 
 
 
未来と言っても、目に見える風景は、あまり変わらない。
 
ビルが立ち並んではいるものの、
ふだん生活している街並みと
それほどの変化は感じられなかった。
 
 
博士は、
 
「まぁ、それほど遠い未来に来たわけじゃないからの」
 
と、助手に説明をした。
 
 
 
あまり変わらない建物、
 
あまり変わらない道路、
 
あまり変わらない乗り物、
 
 
 
ただ。
 
 
明らかに、人のいでたちは
変わっていた。
 
 
 
町を歩いている人、全員が
勲章のようなバッチを
たくさんつけているのだ。
 
 
 
博士は、助手が驚いているのを察して
 
 
「さきほど来た時に、私も気になって聞いてみたのじゃが、
 どうやら未来の人は、自分の得た知識や技術ひとつひとつに
 勲章をつけるという習慣があるようじゃ。
 
 わしなど、勲章をひとつもつけていないから
 とても変な目で見られたわい」
 
 
と、説明をしてくれた。
 
 
 
 
 
 
なるほど。
 
小さい子も、大人も、
男性も、女性も、
 
全員、なにかしらの勲章をつけている。
 
 
小さい子供は、まだ知識や技術が少ないからか、
つけている勲章の数は少なく、またひとつひとつも
小さめの勲章だ。
 
 
とは言っても、3歳くらいの子でも
もう10個は勲章をつけている。
 
 
 
そして、年齢を重ねるにつれて、
勲章の数は多くなり、また、勲章の大きさも
種類が増えていくようだ。
 
 
 
大人は、もう数え切れない勲章を
頭の先から、足の先までつけている人もいる。
 
 
勲章が多い人は、どんな服を着ているのかなんて
全然見えないし、人によっては、つける勲章が多すぎて
顔まで隠れている始末だ。
 
 
自分のつけている勲章が重すぎて
息を切らせて、足を引きずりながら歩いている人までいる。
 
 
 
それでも、勲章をたくさんつけている人は
他の人から尊敬されているようで、
 
「私も、あの人みたいに
 たくさんの勲章がほしいわぁ」
 
などと噂をする声も、ちらほら聞こえてくる。
 
 
そんな噂をしている人ですら、
もう全身がおおわれるほどの勲章をつけているのに。
 
 
 
 
 

博士と助手が不思議そうにあたりを見ていると、
一人の男が声をかけてきた。
 
 
その男は、この世界、未来に生きているはずなのに、
なぜか勲章をひとつもつけていない。
 
 
男は、まるで同志を見つけたかのように
博士と助手に親しげに話しかけてきた。
 
 
 
「よぉ、ご同輩!
 君達も、勲章を捨てた人たちかい?」
 
 
男は、博士と助手の返事を待つ間もなく、
矢継ぎ早に話し始めた。
 
 
「まったく、なんで他のやつらは、
 勲章なんてありがたがっているんだか!
 
 中には、自分の勲章が重すぎて
 外から一歩も出られなくなってしまった
 ご老体もいらっしゃるようだよ!ははっ!」
 
 
 
 
博士は、突然現れた男に尋ねてみた。
 
 
「なぜ、あなたは勲章をつけていないんだい?」
 
 
男は答える。
 
 
「なぜ?…って、、、
 君たちだって、分かっているから勲章をつけてないんだろう?
 
 勲章をつけて誰かに認められなくても、私は私。
 
 得た知識や技術はあるけれど、別に勲章にしなくたっていい。
 
 自分の姿が見えなくなるまで勲章をつけて
 なにか見えることがあるのかい?」
 
 
男は、博士に確認するように、
最後にゆっくりと、こう伝えた。
 
 
「私は、私だ。それ以上も、以下もない」
 
 
 
 
博士は
 
「いやぁ、まったくその通りじゃ!
 誰かに認めてもらうために勲章をつけて、
 それで身動きが取れなくなるなんて、まったくナンセンスじゃ!
 
 あなたのような人が未来にもいてくれて、
 わしは安心したよ!」
 
と言いながら、男と握手を交わした。
 
男は「未来にも」という言葉がよくわからなかったようだが、
笑顔で握手の手を握り返した。
 
 
 
 
 
 
 
 
…男と別れ、博士と助手は現代に戻ってくると
お互いに顔を見合せながら、感想を伝えあった。
 
 
「いやぁ、おかしな未来でしたね」
 
「まったくじゃ。
 あんな未来になってしまうとは、びっくりじゃ。
 わしらは、まともな時代に生まれて、よかったのぉ」
 
 
未来の滑稽さについてひとしきり話した後、
博士は助手にこう伝えた。
 
 
「さて、では君はまた研究を続けてくれたまえ。
 わしは、これから大事な仕事があるのでの」
 
 
 
 
 
博士は、一人で自室にこもり、
机に向かうと、真剣な表情で紙にペンを走らせ始めた。
 
 
 
自分がタイムマシンを発明した最初の人間であることを
学会に発表するために。
 

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