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『うらやましい相手』

1羽のカラスが、気ままに空を飛んでいた。
 
 
カラスがふと眼下に目をやると、
ニワトリが1羽、ニワトリ小屋の中で
うずくまっていた。
 
 
なんとなく興味を持ったカラスは、
ニワトリのそばへと降り立ち、
ニワトリに声をかけた。
 
 
「やあニワトリさん。調子はどうだい?」
 
 
 
 
ニワトリはカラスが来たことに気づくと、
うんざりしたような様子で答えた。
 
 
「やあ、カラスさん。
 調子はどうだいだって?
 もちろん最悪さ。
 
 人間に自由を奪われ、その自由を奪った人間に
 いつ殺されるかわからない。
 
 仲間は食べられてしまった。
 私は卵を産んでいるから良いけれど、
 そんな私だって、いつスープにされるか
 わかったもんじゃない」
 
 
ニワトリはカラスにため息をつきつつ、
話を続けた。
 
 
「私に比べて、カナリアさんはいいよ。
 
 自由はないかもしれないけれど、
 好き勝手に歌っていれば、
 人間に愛され続けるんだから」
 
 
 
カラスは「そんなものか」と思ったものの、
ニワトリを助けることはできなかったので、
ニワトリに別れを告げて、別の場所に飛んで行った。
 
 
 
 
 
カラスが飛んでいると、
今度は裕福そうな家の窓際に、
1羽のカナリアが鳥カゴに入っているのをみつけた。
 
 
 
カラスは好奇心を持って、
カナリアに声をかけた。
 
 
「やあ、カナリアさん。
 さっき、ニワトリさんと君の話をいていたんだ。
 
 好きな歌を歌って、人間に愛されるなんていいなぁ、
 と、ニワトリさんは言っていたよ」
 
 
 
 
カナリアはカラスの言葉を聞くと
驚いて高い声を出した。
 
 
「私がうらやましいですって!?
 それは私の毎日を知らないからですわ。
 
 歌えと言われた時に歌い、
 夜は静かにしていないと怒られる。
 
 自由に羽ばたくことすらできない
 こんなせまいカゴに入れられて、
 一生を過ごさなければならないなんて!
 
 私がうらやましのなら、
 何も制限するものがないスズメさんの方が
 よっぽどうらやましいですわ!」
 
 
 
 
キーキー声で訴えるカナリアの話を聞いて
カラスは「そんなものか」と思ったものの、
今の状況からカナリアを助けることはできない。
 
 
カラスは、カナリアにお礼を言ってから
また別の場所へと旅立っていった。
 
 
 
 
 
 
次にカラスが出会ったのは、
電線に止まっていたスズメだ。
 
 
カラスはスズメに声をかけた。
 
 
「やあ、スズメさん。
 さっき、君のことが話題になったよ。
 
 カナリアさんが言っていた。
 君のことが、とっても自由でうらやましい、って」
 
 
 
 
スズメはカラスの話を聞くと、
チュンチュンと抗議を始めた。
 
 
「カナリアさんがぼくをうらやましいだって!
 カナリアさんは、ぼくが理想としている生き方なのに!
 
 たしかに僕はカナリアさんに比べれば、自由かもしれない。
 
 でも、その自由の大半は、
 エサを探すことに使われているんだ。
 
 いつもお腹を空かせて、
 どこかにエサがないか探し続けるなんて
 みじめなものだよ。
 
 ぼくがうらやましいのなら、
 もっともっと大きな世界を飛び回っている
 ツバメさんの方が、よっぽどうらやましいよ!!」
 
 
 
 
カラスはスズメの話を最後まで聞くと
「そんなものか」とうなずいた。
 
でも、カラスには
スズメの現状を変えることはできないので
「じゃあ、また!」と言って、その場を去った。
 
 
 
 
 
 
カラスがその日最後に出会ったのは、
これから旅立とうとしているツバメだった。
 
 
「やあ、ツバメさん。
 これからせまい日本を飛び出して
 大きな世界を見てくるんだね。
 
 スズメさんが言っていたよ。
 大きな自由を手に入れているツバメさんが
 本当にうらやましいって」
 
 
 
 
カラスの言葉を聞くと、
ツバメはもともと鋭い眼光を、さらに厳しくさせた。
 
 
「スズメさんが私をうらやましいだって?
 バカを言っちゃいけないよ。
 
 スズメさんは、海を越える厳しさを知らないんだ。
 仲間も、途中でどんどん脱落していく旅。
 
 あまりの旅の厳しさに、
 日本で冬を越えることを選ぶ
 仲間のツバメだっているくらいだ。
 
 その越冬ツバメだって、
 厳しい環境を乗り越えなきゃいけない。
 
 これは自由じゃなく、生きるための戦いなんだ。
 
 
 それに比べれば、ニワトリさんはうらやましいよ。
 
 大きな小屋をあてがわれ、エサに不自由することもなく、
 人間の役に立って、厳しい旅をすることもない。
 
 あー、今度生まれ変わるんだったら、
 ニワトリさんみたいに恵まれた環境になりたいなぁ」
 
 
 
 
そういうと、ツバメは
 
「じゃあ、生きていたら、春に会おう」
 
と言って、カラスの元から去って行った。
 
 
 
 
 
 
 
カラスは、今日会った仲間たちの、
それぞれの話を思い出しながらひとり言を言った。
 
 
「あーあ、バカバカしい。
 
 “私にはこれがない”
 “私のもっているものは価値がない”
 
 そんなこと言って、何になるんだ?
 
 
 
 そんな事言いだしたら、俺なんか
 
 エサは不自由、
 人間からは嫌われ、見つけられると石を投げられ、
 カラスよけの反射板があちこちにあるし、
 いつ殺されるかわからない。
 歌えず、世界を見ることも出来ないじゃないか。
 
 
 “これがある”“これがない”
 なんて、どうでもいい。
 
 
 何があるか、何がないかなんて、くだらない。
 
 そう。生きるだけさ」
 
 
 
 
カラスは飛び立った。
 
夕焼け空が赤く燃え、
カラスのシルエットを美しく映し出していた。
 
 
 

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