なんでアイツは、運がいいんだろう?
同じ町で生まれ、同じ町で育った。
背格好もそれほど変わらないし、
学校での成績も、ほとんど同じようなものだった。
アイツも私も、運動神経も同じようなものだったし、
外見だって、それほど差があるとも思えない。
なのに。
アイツは、ことあるごとに、ラッキーをつかむ。
小学生の頃、近所のお祭りでお菓子がもらえる時、
アイツがもらったお菓子で
「ごめんね。これでおしまいになっちゃったの」
と、私はもらえなかった。
アイツはお菓子を分けてくれたけれど、
少しみじめな気持になった。
中学生の頃は、同じサッカー部でレギュラー争いをしていた。
試合当日、
「お前とアイツ、実力は同じくらいだから、
どっちが試合に出るか、じゃんけんで決めろ」
と言われ、アイツがじゃんけんに勝ち、レギュラーになった。
その試合での活躍が認められ、
アイツはそのままレギュラーのポジションに居続けることになり、
私はベンチで彼の活躍を見続けることになった。
高校生の頃は、同じ一人の女の子を好きになった。
はじめは私の方が仲が良かったのだが、
たまたま教室の席替えのたびに何回も
アイツと女の子が隣同士になり、いつのまにか
「話しているうちに、あの人の方がいいかな?
と思って。。。」
と、私がフラれることになった。
私の思いこみかもしれない。
私の努力不足かもしれない。
そう思って、自分なりに頑張ってきた。
でも、どう考えてもアイツの方が
「ここぞ」と言う時に、良い目にあう。
私が個人的に思っているだけでもない。
「実力は同じか、それ以上あるのに
おかしいなぁ」
と、まわりの人も言ってくれる。
しかし、現実なのだ。
そんなアイツとも、社会人になり
別の会社に勤めることになり、
たまに会う程度になっていった。
私は、会社員として普通にコツコツと働き、
大変な事もありながらも
それなりの毎日を送っていた。
しかし、思いもよらぬところから
アイツの近況を知ることになった。
それは新聞のある記事だった。
アイツがたまたま居合わせたところに
気分の悪い老人がいた。
そこで救急車を呼んだそうなのだが、
その老人が、実は大企業の会長だったそうで、
「現代の美談」
として、新聞に取り上げられた。
そこでアイツに久しぶりに連絡を取ってみると、
やや興奮した声で
「お前も記事を読んでくれたのか。ありがとう。
今回の縁で、その会長の秘書になることになったよ」
と、私に伝えてきた。
そこから、ちょくちょくアイツから近況を聞くことになった。
「今は、会長の秘書として頑張っているよ」
「とりたてて能力を買われているわけじゃないけれど、
最初の出会いでの信頼が厚いみたいだ」
「会長のお孫さんと結婚することになったよ。
結婚式、ぜひ参加してくれ」
「今度、今の会社の重役になるよ」
「たまたま旅行先で知り合った人が
大事な取引先で、そこから取引が大きくなったよ」
「今度、社長になることになったよ。
自分に務まるか分からないけれど、がんばるよ」
アイツはアイツで、ものすごく努力しているのだろう。
アイツは誠実で、努力もする人だ。
アイツの話をするたびに、それはよく伝わってくる。
しかし、私とアイツとの、これほどの差が出るのが
自分では全く分からなかった。
私も自分に出来る限りの努力をしている。
人には出来る限り優しくしているし、
誰のせいにもせず、コツコツと日々頑張っている。
しかし、私はずっと平社員のままなのに、
アイツは今や、大企業のトップだ。
「たぶん、私にはわからないところで
アイツも苦労しているだろう」
「私には思いもよらないような努力を
アイツは影でしているに違いない」
そんな風にも思ってみたのだが、
たまにかかってくる電話で話を聞くと
「いやぁ、本当に順調だよ。
ちょっと困ったことがあると、
どこからともなく、助けが来る」
と、アイツは笑って話す。
人と比べてもしょうがない。
アイツはアイツ、私は私だ。
でも、一体、アイツと私の何が違うんだろう。。。?
結局アイツと私の違いが分からないまま、
私たちは年を取り、同じ病院で最期を迎えた。
アイツは病院の特別個室で、たくさんの家族に見守られながら。
私は、相部屋で、一人でひっそりと。
天国にのぼる途中、アイツと会った。
お互い人生を全うできたことを讃え合っていると
そこに天使が現れた。
天使に導かれるまま、
天国の、ある部屋へとアイツと私は通された。
そこで待っていた天使の長という風貌の天使が
私たち二人に声をかけてきた。
「はい、お疲れさんでした。
現世は、どうでしたか?」
私は、天使の長に率直な気持ちを伝えた。
「良い人生だったと思います。
ただ、ツキはなかったと思いますけれど」
天使の長は、私に向かってこう言った。
「あなたが選んだのは、
“運から見放されるハードなノルマコース”
でしたからね。
そんな人生だったのに、よく諦めず、投げ出さず、
最後までやり通して“良い人生だった”と言えるのは
とても素晴らしいと思いますよ」
天使の長は私にこう言うと、
今度はアイツに向かって話し出した。
「あなたは、充分楽しんだでしょう?
まぁ、どう使うかは自由ですけれど、
あなたが使える“現世での有給休暇”は、
今回で終わりですからね。
あとはしばらく、きついノルマで頑張ってもらいます」
アイツは、天使の長の言葉を聞くと、
耳を疑って、聞き直した。
「え?現世での有給休暇って、なんですか?」
天使の長は、やれやれとため息をつくと
「忘れているのも無理ないですけど、
あなたは今回、有給休暇を取ったんですよ。
基本、現世は魂を磨きに行くところです。
ただ、毎回毎回キツいことばかりだと
うんざりしてしまうでしょう?
ですから、たまに現世に行っても苦労しない
“有給休暇”の制度があるんです。
あなたは全部の有給を消化してしまったので
これからは頑張ってもらいますよ」
と説明をした。
その後、天使の長は私の方に向き直り、こう言った。
「それにひきかえ、あなたは有給休暇を
全然使っていません。
どうです?今度現世に行く時は、
たまには有給休暇で行ってみては?」
私とアイツとの違い。
それは、働いているか、休暇だったのか、
ただ、それだけの違いだったのだ。
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